表紙はどうしてできたのか

佐藤秀峰は『デジタル生存競争』の表紙をこう描いた

 

 本を通読してガァーンとなった。こりゃ、いゃー、難しい。読んでくれる人はいるのかナ? 何を言っとるンだオマエさん、キミがくじけてどうするんだ。あゝだこうだ。迷いに迷った。ある覚悟で突入するイメージを〝本〟の表紙にしようじゃないかと心に決めた。〝決死〟か……頭に浮かんだ佐藤秀峰のコミック『特攻の島』。電子本を全部もっていた。ページを振り返り、すぐにいいコマを選び出し、こんな感じだろうと勝手に。どうだ、いいじゃないか!

 

ラフCover案

 

 とはいえ、少し考え直した。ここに描かれているのは、たとえ架空だとはいえ、我々が体験した事実に基づいている。死と向かい合う現実を〝本〟の表紙に利用してインパクトを与えようという魂胆こんたんをどう思うか。そっぽをむくなょ、オマエ。迫力を出せばいいという自己都合で語り終われるコトじゃない。いや、いや、待ってくれ。聞いてくれょ、オレは決死そのものなんだ。

 

 デジタル出版が歩んだ30年を思い出した。いい気になってスタートしたのは間違いない。いい気にでもならなきゃやれることじゃなかった。一切が〝無〟だったから。いい未来がそこにあるような気がした。しかし〝今〟じゃない。未来だ。あるかどうかもわからない。作詞家、阿久悠が最初に書いた、ザ・モップスの「朝まで待てない」、和田アキ子「天使になれない」、北原ミレイ「ざんげの値打ちもない」、大信田礼子「女はそれをがまんできない」……みんな「ない」からはじまっていた。残念だが歌詞じゃないんだ。デジタル出版の船出だった。粋がってやれるのは2、3年。船が港を出たら、そこにはとてつもない荒波が待っていた。リアルという生活が。家賃だローンだ、入学だ浪人だ。病気がなかっただけ救われたかもしれない。神様にお礼を言わねばならない。でも入りはない。スッテンテン。もちろん社会保険なども。スタッフを経営者にして給与はなし。彼らから借入を起こし、毎月の返済が給料のような偽装さえはばからなかった。売上につながるすべては人間関係から生まれた。あまりのみじめさに同情したのか「こんなことやれるかい?」。その一言に飛びついていった。

 ガラケー携帯マンガでなんとか救われた。いい会社が助けてくれた。混ぜてくれた。取り分を保証された。窒息寸前、息を吐いた。深く長いあの息。生きることの意味を思い知らされた。しかし、だからといって、いつまでも頼っているわけにもいかないだろう。

 

 佐藤秀峰さん!あなたの描かれた一コマ、二コマを使わせてくれないか。ある日、思い切ってこう話した。申し出に佐藤秀峰は同じなかった。何がやりたいんだ。借り物じゃ済まないだろう。私が描くよ、あなたのためなら。聞いたこともなかったこの一言。背筋を正した。心のうちの一切を彼に吐露とろした。デジタルには億万長者がいる。人から奪った金。だが奪われる実感がない。更に、奪っておきながらトンズラを試みる。マンガのように〝悪〟が見えない、等々。よくわからない。そう、わからない中に冷血な収奪が存在する——デジタルの怖さ、むなしさ。そして、一ヶ月ほどして表紙イラストは上がってきた。

 善も悪もわからず、見えず、語らず、ただひたすらにゼロ/イチのチャリンコの音は響いて、ある方向に流れていく。そこに君臨する姿が現れる。喜びも、笑いも消え失せて。

 

完成版イラスト表紙

 

うーん、やはり日本語版はコミックの力が大きな援護射撃じゃないか! タイトルも帯も入れて、原本英語版とを並べてみた。

 

英語版の表紙
日本語版の表紙

 

 君臨する男の顔の虚しさがなんともいえない。ところで、この人は誰なんだい? あとになって、多くの人がこの男が気になったようだ。うーん、言われてみるとどこの誰とはいえないが、妙なリアリティーがある。ますます気になる。

 

 出来上がった印刷本を抱えて佐藤漫画製作所を訪れた。佐藤秀峰さんをはじめスタッフが温かく迎えてくれた。最初はどう描くか随分迷ったと率直に話をしてくれた。いろいろと写真を撮ったとも。スタッフにもカメラを向けて、あっちを向け、こっちを見ろ、上だ、下だと。最後にたね明かしをしておこう。

 お別れしようと部屋を出た。そこで佐藤秀峰さんが一人のスタッフに声をかけた。こちらに向いたスタッフのその顔をしばし見つめた。えっ、あっ、そうだったのか。そうだったんですよ、と佐藤秀峰さんは私に向かって微笑んだ。

 

佐藤漫画製作所のスタッフ

〝妙なリアリティー〟は、実はここにあったのだ。

 

 

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