12月8日がやってくる

『虎虎虎』チラシ

この日は、なんの日でしょうか? 81年前、日本はハワイ真珠湾を奇襲し、米国との戦争を開始した日です。そして11年前のこの日、ボイジャーはデジタル出版をWebに集約する方針を打ち出し、出版ツール/リーダーを導入した日でした。手元に残る思い出から、少しお話をさせていただきたい。

 

一枚の宣伝ビラがあります。ご覧ください。表示されている画面の裏には、びっしりと文章が書かれていました。

 

 

この本をお届けする私たちの気持ち、と題して――どうしてあの戦争を起こしてしまったのか、どうして私たちは戦争に突入していったのか、と問いかけます。一度は振り返るべき忘れがたき戦争を描く、成しえなかった一篇の映画の形見、映画監督 黒澤明と脚本の同志、小國英雄、菊島隆三が私たちに残したシナリオ準備稿『虎虎虎』の紹介をしています。忘れられた一遍のシナリオを新しいWeb出版として試みたのです。

 

ちょうどその時、ボイジャーは発足して20年になろうとしていました。ずっと苦難の道でした。夢みて叶えられなかった20年。これは電子出版に与した私たちボイジャーの正直な気持ちに他ならないものです。なにもかもを失って、今はただこれを伝え残すのみの心境に至ったといえます。最後にこう書き記しています。求める一切を捨て、ただ訴えたい、真価を問う電子出版の在処を、と。

 

ボイジャーの読書システム「BinB」記者発表会の様子。BinBで読む最初の1冊目がシナリオ準備稿『虎虎虎』であった。発表会で解説を務めた浜野保樹氏(東京大学教授・当時)は、2014年に逝去された。氏がシナリオ準備稿『虎虎虎』を発見した経緯とその背景については、無料公開中の以下電子本でお読みいただきたい。 『解説「虎 虎 虎」——根本的には悲劇であることが土台だ』(浜野保樹 著)

 

新しいデジタル出版ツールの追求、それはWeb出版へと繋がる基盤の転換であり、これを利用するビジネス、書き手の変化につながるものです。まだ見えないこれら将来の姿と向き合い、具体的な一例を示していく活動が続きました。書き残された一冊が『木で軍艦をつくった男』でした。映画『トラ・トラ・トラ!』(1970年公開)の美術スタッフとして北九州の芦屋町海岸に実物大の戦艦そして空母のオープンセット建造を担当した、近藤司さんの証言と写真で構成されたWeb出版の試みです。奇跡的に残されたと言ってもいい貴重な写真が300枚ほど収録されています。そしてこの中に、芦屋町のアマチュアカメラマンが撮った、当時の現実を記録した一枚があります。見てください。

 

人影は陽炎のように揺らいでいる。その先に数台の観光バスも停まっている。空母赤城の飛行甲板には何機もの戦闘機の存在を目撃できる。そして奥に戦艦長門の雄々しい姿が聳えている。儚い一瞬の蜃気楼のようであった。事実を知る今となっては。

 

 

最後に、どうしてもお伝えしたい片岡義男の一篇があります。『広島の真珠』という題名が付けられています。文中、アメリカで見たTV番組の話がでて、その中で『ライフ』のロジャー・ローゼンブラットが語る広島の原爆資料館について、片岡義男の次のような記述があります。

「彼が語った主題は、どんな事態にせよそれを引き起こした原因つまりコーズと、引き起こされた結果であるエフェクトとが、常に一対になっているというものだった。社会や世界のなかで起こるすべての出来事の基本は、コーズとエフェクトとの連鎖である」。そして、戦争もそうだとこうも続けた。「たとえば太平洋戦争では、さかのぼってつきつめるとじつに小さなコーズが、連鎖に次ぐ連鎖という増幅過程をたどり、ついには広島と長崎に投下された原爆という巨大なエフェクトになった」と。

 

 

私たちボイジャーは、デジタル出版を通じて30年を必死に生きてきました。特にその過程で、この約10年ほどの間に起こった出版のWebへのシフトを身をもって体験しました。一例としてシナリオ準備稿『虎虎虎』から『木で軍艦をつくった男』へ、そして片岡義男の書いた戦争に関わるいくつもの作品へと繋がっていく流れは、かつて私たちが書籍という膨大な文化的資産の中で感じ取った経験と同質の、いや写真や画像の量を考えると更にその上を超えていく情報連関を築くものであったと思います。この約10年ほどのデジタル出版への果敢なトライは、まだ遠い道のりとはいえ、垣間見える未来を目撃できた瞬間であったのではないでしょうか。