ロマンサーの作品事例に目を引く作品がありました。タイトルは『お話は短いけども。』。著者は東京都立大泉高等学校附属中学校と書いてあります。ぱらっと読んでみて一言「本当に中学生が書いたの!?」。思わず声が出てしまいました。
中学時代の国語の授業を振り返ってみました。『山月記』『走れメロス』『坊っちゃん』と作品名は頭に浮かぶのですが、それ以上のことが思い出せません。先生ごめんなさい。私は怠惰な学生でした。
今の中学生はどんな国語の授業を受けているのでしょう。少し覗いてみたくありませんか?
118の空想と妄想
2021年9月に公開された『お話は短いけども。』は生徒1人1人が書いたショートショートをまとめた作品です。3クラスで118作品が収録されています。公開から3,000回以上の閲覧がありました。学校から発信された電子書籍で、ここまで読まれた作品はありません。本を開いて目次を読んでみてください。なんと自由な発想でしょうか!
本作品の面白さは生徒によるあとがきです。空想と妄想を込めた本文から一転、あとがきは自分自身の現実を見つめています。どんな問題意識で作品を書いたのか? その過程まで読んでみてください。
青春を31文字に収めたら
2022年3月に公開された『どうも、歌人になりました』は、卒業間近の中学3年生による短歌集です。登校・休み時間・部活・恋といったテーマで、120の視点が1冊にまとまっています。学生時代を思い出すいくつかの短歌を紹介します。
“下校中 電車で見つけた 夕焼けは スマホがあったら 気づかなかった”
“全員の 顔を見るのは できないが 気持ちと音は 背中に伝わる”
“君となら 飛車角落ちで 構わない 恋が成るまで 歩を進め行く”
何気ない学校生活がこんなにもきらめいていたのだと思わせる一句一句。あの頃に戻ってみたいと思う大人も多いはずです。
授業の成果を電子書籍に
どのようにしてこれらの作品が生まれたのか? 電子書籍の制作と指導を担当した都立大泉高等学校国語科 石鍋雄大 教諭に話を伺いました。
先生が生徒に伝えた大切なことは “読み手がいる” ということ。
「作品は国立国会図書館や学校図書館に納本するぞ!」
「誤字脱字は自分の責任。残って恥ずかしくないようにしっかりと書こう」
と生徒のやる気を起こしたそうです。
この意識付けが作品のクオリティに反映されているのでしょう。
電子書籍を公開することでこんな嬉しいこともありました。学校のホームページに作品のURLを掲載することで、保護者のみなさんが作品を閲覧できるようになりました。思春期真っ只中の15歳にとって作文は親に見せづらいもの。ペンネームで作品が公開されていることから、家族の中で「どんな話を書いたのよ?」と会話があったのではないでしょうか。
他校の先生・生徒のみなさんにも作品は広がっています。紙の文集では難しかった作品を通じた新たな交流が生まれるかもしれません。電子書籍だからこその取り組みが学校から始まっています。
◇ ◇ ◇
自分の作品が本になる。こんな素敵な体験を学生時代にしてみたかったとふと思いました。自分が書きたいよりも、同級生はどんなことを考えているのか? に興味があるからかもしれません。書いて・読んで・語るまでが出版活動だと今回の事例から痛感しました。
デジタル出版の市場を見ると電子コミックが売上の9割を占めると言います。
「デジタル出版はコミックしか輝けないのか?」
そんな気持ちが心のどこかにありました。しかし、目を凝らして見てみると、若く新しい作品がデジタルで現れる可能性を感じます。絵は描けなくても言葉で書く、出版する、交流する、残す。そうした活動をロマンサーでは大いに盛り上げていきたいと考えます。みなさんもデジタル出版の楽しさをロマンサーで体験してみてください。
ロマンサーサポート
柳尾知宏