この度、表題シナリオの電子版をお読みいただいたみなさまへ、この企画を担当した責任者として心からのお礼を申しあげます。そして、いただきましたご意見に対してお答えするために一筆差し上げたく存じます。
すでに、感想をいただきましたみなさまへはお礼の連絡を伝えさせていただきました。けれども、いただきました内容には大変重要なことが書かれてあったと、チーム一同、深く受け止めております。シナリオ準備稿『虎 虎 虎』が読めたこと、そしてこのシナリオの内容に対する意義をたくさん書いてくださいました。本当に大きな励みとなりました。一方で、私たちのできることを精一杯したつもりですが、明確な限界をもつものと改めて自覚せざるをえません。本日は、私たちのやったことに関連する情報をみなさまと共有させていただきたいと思います。
ご意見の多かった内容は以下の通りです。
1.電子だけではなく紙で出してもらいたい。
2.閲覧の期間は短く、十分読む時間が持てなかった。
3.電子的な閲覧方法のわかりにくさ。
この企画は、本来、紙で出版できる余地のない状況を背負っていました。紙版になっているシナリオ準備稿『虎 虎 虎』は、日本には現在、東京都調布市にある「武者小路実篤記念館」に、シナリオ作家・小國英雄氏の遺品として一冊が収蔵されているだけです。紙版と言えるものではありませんが、2011年にボイジャーが、米国アカデミー協会マーガレット・ヘリック図書館から持ち帰った、700枚ほどのゼロックス・コピーがあります。いずれも、ボイジャーはこれらを紙版として出版できる立場にはありません。シナリオを書かれたお三方、黒澤明、小國英雄、菊島隆三とも、すでにみなさま鬼籍に入られています。権利処理に関しては黒澤プロダクションおよび日本シナリオ作家協会を通してお三方の権利継承者から、期間を限定し、無償で、電子的に配信する許諾を受けたものです。紙版、電子版に関わらず、固定的に半永久に残していく出版者としての立場にボイジャーはありません。
シナリオ準備稿『虎 虎 虎』は「準備稿」とあるように、二十世紀フォックス社が製作した映画のために準備されたものです。経緯の詳細を深く知る由もないですが、田草川弘氏の書かれた『黒澤明 VS. ハリウッド』からは幾多の事実を推し量ることができます。である以上、正式に書籍として出版するにはお三方以外の権利処理も必要とすることでしょう。
こうした事情の下に、シナリオ準備稿『虎 虎 虎』は、あえて真珠湾攻撃80年となる2021年末に、期限付き、無償で、電子的に公開に踏み切ったのです。このシナリオが人の目にまったく触れることもなくこのまま死蔵されていくのは、日本人として忍びなく、無念に感じたからです。
私たちボイジャーは新しい電子的な〝本〟の閲覧リーダーを開発した時、最初のサンプル〝本〟として、シナリオ準備稿『虎 虎 虎』を選びました。2011年12月8日(10年前のことです)。その時に作った紹介ビデオがあります。1分半ほどのものですのでどうぞご覧ください。このビデオは10年後にそのまま、70年を80年に書き換えて紹介に利用いたしました。ご覧になった方もいらっしゃると思います。
10年が経過し、そしてまた12月8日がやってくる真珠湾攻撃80年目の日にあわせて、シナリオ準備稿『虎 虎 虎』はこうしてみなさまへ届けられたのです。
みなさまからご指摘いただいた上記の1.2.について、この作品の権利的な事情から、今回ボイジャーがみなさまへ提示した対応以上のことができなかったことを、どうかご理解いただきたいと思います。
3.については、私たち電子的な〝本〟の閲覧を追求する者として、今後の課題とさせていただきます。創業して30年間、一筋にこの道を歩いてきました。やっと辿り着いた現状です。険しい課題がまだまだ残っていることをこの度のみなさまのご意見から思い知らされた気がいたします。
最後にもう一度、みなさまへお礼を申し上げます。ありがとうございました。また、いつか別の企画での機会があると思います。末長くボイジャーをご支援ください。
関連する私たちボイジャーの考えを、文芸誌である『新潮』(2021年12月7日発行号・新潮社刊)に書きました。以下は、その原稿の元になった記述を電子本にしたものです。どこかでお目通しくださいますようお願い申し上げます。
https://r.binb.jp/epm/e1_210134_19102021155015/
株式会社ボイジャー 取締役 萩野正昭