みなさん。私たちは常日頃テレビ番組を見たり、実際の講演・レクチャーなどに出席したりして、人の話を見聞きしています。講師が外国人であれば、同時通訳などを介して内容を理解します。しかし時間は、その場において一緒に過ぎ去っていきます。耳に入った今その言葉は、次に話しかけられる言葉によって押し流されていきます。区切った部分をまとめて、重ねて、全体の主旨を時間の中で把握していかねばなりません。この能力には大きな個人差が生じます。
大事なことは、流れ去る時間を戻せるかどうか。そこに記録媒体の力があります。講演を収録したビデオは、視聴者であるあなたが時間をコントロールできます。「オッと」「何だ?」となったら巻き戻せるのです。字幕を読みきれないならストップさせればいいわけです。ビデオの映像は時間に従って流れていきますが、その時間に手を出せるか出せないか、ボタンを手にしていることは大きな違いとなります。今では誰もがスマホを所有する時代です。すべてのスマホは記録を可能にしています。
一方で、ビデオにある音声や字幕は、パソコンなどで書き出すことが可能です。文字情報として確保します。この文字情報を〝本〟に仕上げることができます。電子本はそれを得意中の得意とします。話し手の表情はビデオから引き抜きます。言及する対象の画像などは、探して内容とリンクさせれば効果的です。実に豊かな〝本〟の内容が仕上がります。その〝本〟は、読者の読む速さで進みます。読者の読むスタイルを誰もコントロールできません。ゆっくり読めばゆっくり、早く読めば早く進みます。つまり、読者自身が時間を支配しているのです。
過ぎ去った講演の時間は、記録媒体によって〝残る〟ものとなっていきます。残った記録を扱う最も簡便なメディアとは……やっと気づいて来ました。〝本〟だったのです。
2023年12月、来日したダグラス・ラシュコフの講演は、その流れをデジタルで具体的な形にしました。講演はすでに終わった過去のものですから、そこには記録媒体として収録したビデオ映像と講演の話を文字と画像とで構成するデジタルの〝本〟が残されたのです。
どうか見てください。どうか読んでください。一会社が、いや一人の人間がこれを実行できる時代に入って来ました。これがみなさん、デジタル出版の時代なのです。