たかが20,000か、そう思う人も多いことでしょう。でも、ものを書く20,000人です。ものを言い、それを記し、残していく人たちなのです。私たちボイジャーは1992年に電子出版の会社としてスタートしました。へぇー、コンピュータで本を読む時代なのか! そんな新しモノ好きの人たちがドンとやってきました。いい気になって、こりゃデジタルの出版は先が明るいぞと思ったりしたものです。とんでもありませんでした。新しモノ好きの人たちは「新しモノ」が好きなのであって、そこに書かれる内容は二の次のことでした。そして「新しモノ」はすぐに古びていきました。技術に乗っかって生まれた「モノ」が古くなるということは、動かなくなる、消え去るということでもあります。内容が二の次でよかったですよ。本気だったら、消えてしまってどうするのですか!?
苦しい旅路はそこから始まりました。一方では「いいね」のポチッとが20,000人から200,000人、2,000,000人へと膨らんでいく世界が謳歌していったのです。これが私たちの望むデジタルの明日なのか。
書くとは何か。それは「ポチッ」とは違う。人の真面目さに多くを依存するものです。お堅いことを言いたいんじゃない。マジメって平たく言えば文字を使うということかもしれません。文字は今はもうみんなキーボードやスマホで入力しているでしょう。しかし、手で書くこともできる。書かれたものは同じです。これがマジメに通じる何かを持つと感じます。脱技術にも通じている伝統文化だと。長い年月を経たコミュニケーションの手段を使って中味を書いていくのです。ガワにしか興味がなければ中味は重きを失います。変化するガワには、いつも同じものが入っていきます。一方で中味はいろいろです。変化のない不変の入れ物に多種多様な内容が入って今日まで来たのです。
紙の本を見てごらんなさい。入れ物としての本の構造には何の変化もありません。印刷がはじまったあの時代から。本の製造技術は発展進化しましたが、本の構造は変わりません。その変わらない構造が残ることにつながったのです、多種多様な中味を残す私たちのメディアとして。
本を土台にビジネスは発展しました。印刷技術の発展、流通システムの発展がこれを支えました。ベストセラーが出版社の経営基盤を固め「売れるものを〝本〟というんだ」なんて言葉も生まれました。売上の分析は1対マスに拍車をかけ、売れそうもない作品は事前に察知され、排除されていきました。出版の原則である多様性は勢いがなくなったのです。
変化の激しい中にあって、残すを課題とする、その具体的な実例となったのが出版ではなかったでしょうか。その「残る」が最も不得意だったのがデジタルでした。デジタルで出版するツールを必死に開発しました。
書くことから最も遠く離れた市井にひっそり生きるマジメな人たちへ届けと願いました。そのためには、余計なことはしない、複雑なことは避ける、真っ先に逃げたりしない、消え去ってもいけない。一見、面白そうにも見えない文字にこだわる、質素で見栄えのしない、道具に徹する——この呼びかけに、20,000人の作家が集まったのです。
ご自分の想うこと、知ること、見てきたこと……そうした現実・事実の記録は、この時代を生きる誰もが経験として蓄積しているものです。自然に吐露しましょう。ヘソを曲げても、楯突いても、自分の道を行きましょう。まったく売れない、たった一冊の本を堂々と残していきましょう。
ありがとう20,000人! あなたへ、心からの拍手と御礼を送ります。
ボイジャー取締役 萩野正昭