阿久悠の命日に記す

2007年8月1日、作詞家阿久悠は亡くなりました。今日は命日、ちょうど10年が経ちます。まさにこの時期に、私たちボイジャーはデジタル発の連載を開始しました。題して『阿久悠と歌謡曲の時代』。佐藤 剛が書き、好評に連載は回を重ねています(8月4日に第7回が公開予定)。

 

作詞家として大きな足跡を残し、阿久悠はこの世を去って行きました。常に時代に生きる人の心の欠落感をすくいとり、吐き出すように叩きつけてみせたのです。コンクリートの壁を素手で打つ無力感、跳ね返る音さえも鈍く打ち消される孤立、彼は存分に知っていたのでしょう。「朝まで待てない」「懺悔の値打ちもない」「どうにも止まらない」……この、ない、ない、ない、だけが妙にいつまでも心に響いてきます。誰でも、それは「ない」からはじまった……大事なことは「ない」を知っていることです。「ない」を忘れないことです。何かに立ち向かおうとするとき必ず自分が見つめなければならない一切の無を引き受けて、みんな出て行くものです。だったら今、阿久悠を語りながらこれを届けるのは、デジタル出版に向かい合うあなたへのささやかな応援歌じゃないでしょうか。

 

つい先日発表された調査報告書で、電子書籍の年間売上はついに2000億円に達するとのことです。ナーんだぁ、結構じゃないか。そう思ってもいい。でも、8割は紙で生まれたマンガの電子焼き、何のクリエーションもない。いつまで続くわけもない。誰かが「ない」から歩いていかねばならないはずなのです。

 

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宣弘社の職場にて 20代始めの頃

提供:明治大学史資料センター/阿久悠記念館

https://www.meiji.ac.jp/akuyou/

 

70歳で阿久悠は亡くなりました。あなたは今お幾つですか。長生きしてください。ずっとチャレンジしてください。90歳を越えたボイジャーRomancerのデジタル作家が二人もいらっしゃいます。渋い世界にしばしひたり、阿久悠・作詞、森田公一・作曲、河島英五が歌った一節を最後に記し残しておきます。

 

妻には涙を見せないで
子供に愚痴をきかせずに
男の嘆きはほろ酔いで
酒場の隅に置いて行く

 

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