「本の音声読上げ」を考える

「障害者差別解消法」(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)ってなんでしょう……ご存知でしょうか。
4月に施行される法律です。出版人として受けとめねばならないこと、それはアクセシビリティの向上です。公共の図書館などでは視覚障碍者の求めに応じて読上げ図書の提供が義務付けられます。公共図書館以外でも努力義務があります。

 

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PC・タブレット・スマートフォンから音声読上げ

 

私たちデジタル出版人として行うべきことは、EPUBで出版物をつくることです。
EPUBはアクセシビリティに配慮したフォーマットです。ところが、それだけでアクセシビリティに配慮した電子本になるかといえば、そうではありません。

 

EPUBを作成する場合には、
・見出しをきちんと設定する(見出しをナビゲーション機能として活用)
・画像に代替テキストを設定(画像の存在と意味について認識ができる)
この2点を重視してください。

 

Romancerでは詳しく説明をしています。制作ガイドの「原稿の作り方(MS Word編)」や「原稿の作り方(LibreOffice編)」をご覧ください(会員専用です)。

 

ボイジャーは.book(ドットブック)という専用のデジタル出版のためのフォーマットとT-Time(ティータイム)というリーダーを提供してきました。.bookは、専用のリーダーT-Timeで読むのです。紙の本を参考にしつつモニターでの読みやすさを追求しました。しかし、T-Timeで培われた表示やインターフェイスは、視覚障碍者には何の役にも立ちませんでした。読上げをするための、キーボードショートカット、文字表示方法、拡大方法等々…視覚障碍者のことを考えて設計されたインターフェイスは考えられていなかったのです。そこで採った方法は、視覚障碍者向けのソフトを開発している会社と協力し、同社の「My Book」と.bookの調和を図ったのです。読上げ対応は完成しました。

 

mybook.bookをMy Bookで読上げる画面

※『まぼろしの邪馬台国』宮崎康平 著/講談社

 

 

ところが問題です。読上げを許可しない出版社があったのです。読上げの可・不可は出版社の手に握られていたというわけです。あなたが著者として出版社に本の販売を委託するなら、出版社にあなたは読上げを許可するように主張してください。これは「障害者差別解消法」の精神です。かつては「読上げ品質が悪いから許可しない」などと作家は言い、出版社はそれに追随していました。

 

作品を視覚障碍者にも提供したいと思うなら、EPUBファイルそのものを渡して読んでもらってください。各種のリーダー(Kindle、iBooks、Google Playブックス)の読上げ対応は、完璧ではないにしても(画像の代替テキストを読んでくれないとか)かなり進んでいるようです。読上げに対応した専用のリーダー(前述のMy Bookなど)では、もちろんEPUBは読上げ可能です。

 

最近は、紙と電子の同時発売も多くなっています。読上げに対応した書店で購入すれば新刊の話題書にもふれることができます。一方で、既刊本で電子化されていないものは、EPUBにすることも求められてくるでしょう。スキャニングした画像ではダメです。きちんとテキストにして、見出しを付けてアクセシビリティに配慮したEPUBを作ってほしいと願います。