「私の知らない未来の読者」を夢見て――富田倫生さんが青空文庫にかけた想い

 

インターネットに本を解き放つ

 

1998年のMac World Expoの集合写真

1998年のMac World Expoにて。一番右が、富田倫生さん。右から三番目に萩野正昭。

 

2013年8月16日、富田倫生(とみたみちお)さんは、61歳で肝臓がんで亡くなりました。富田さんの名前は知らなくても、インターネットの電子図書館「青空文庫」はご存知だと思います。富田さんはその「青空文庫」を立ち上げた方です。もしも生きておられたら、インターネットの青空に本を解き放つような活動にもっともっと尽力されていたことでしょう。

 

富田さんは生前ことあるごとに、講演の中で芥川龍之介の『後世』を引用していました。

 

 時々私は廿年の後、或は五十年の後、或は更に百年の後、私の存在さへ知らない時代が来ると云ふ事を想像する。

その時私の作品集は、堆うづだかい埃に埋もれて、神田あたりの古本屋の棚の隅に、空しく読者を待つてゐる事であらう。

いや、事によつたらどこかの図書館に、たつた一冊残つた儘、無残な紙魚しみの餌となつて、文字さへ読めないやうに破れ果てゝゐるかも知れない。

しかし――

私はしかしと思ふ。

しかし誰かゞ偶然私の作品集を見つけ出して、その中の短い一篇を、或は其一篇の中の何行かを読むと云ふ事がないであらうか。更に虫の好い望みを云へば、その一篇なり何行かなりが、私の知らない未来の読者に、多少にもせよ美しい夢を見せるといふ事がないであらうか。

 

「私の知らない未来の読者」を夢見て、青空文庫に命をかけていく富田さんは、電子出版の未来を夢見るボイジャー創業者、萩野正昭にとって盟友と言ってよい存在でした。

 

「電子書籍をやることの意味があるのか。ずっと問い続けたのが萩野さんの人生だったろうし、私の人生でした。」

富田さんは、2012年に行われた国際電子出版EXPOのボイジャーブースでそう語りました。

 

富田倫生さん

 

 

萩野は歴史アーカイブ研究センター(略称:HARC)の「オーラル・ヒストリー(oral history)」インタビューで、次のように富田さんと青空文庫のことを語りました。

 

「彼はボイジャーに対する親しみや敬意があり、私たちも真剣に電子出版に取り組んでいる事に敬意を払っていました。電子出版の世界にとって、富田さんと青空文庫は非常に重要な存在でした。」

 

電子出版の未来を作るにはみなさんの力が必要です。一緒に進んでいきましょう。

 

関連本・リンク

 

芥川龍之介『後世』

(自動音声読み上げで耳で聞く読書ができます。自動音声読み上げ開始/停止は、PCではキーボードの[T]キーを押してください。スマートフォンでは画面をタップして、メニューから音声読み上げを押してください。)

 

まつもとあつし寄稿「追悼:富田倫生さん――書籍の「青空」を夢見て走り続けた人」ITmedia ebook userより

富田倫生wikipedia

本の未来基金

 

電子出版とは何かを問い続けて

 

萩野は、富田さんとの思い出をこちらの作品でも語っています。