3月11日が今年もまたやってきます。2011年、私たちを襲った大地震と津波。原発・放射能という言葉を気にかける人も少なくないのではないでしょうか。
原子核工学はわずか70年前に誕生しました。その間、多くの科学者・技術者たちが原子核に秘められたエネルギーの研究に努めました。私たちの今の生活は、彼らの成功と失敗の上に成り立っています。原子力発電による電力の供給はもちろん、放射線は病気の診断、治療に欠かすことはできません。
3.11以降、原子力に対するイメージが変わったように感じませんか? 過剰な演出を見聞きすることに慣れてしまうと、正しい判断はくだせません。どうやって原子力と私たちの未来を想像すれば良いのでしょう? そのヒントがこれから紹介する本に描かれています。
今年2月、医学教育出版社から『アトミックアドベンチャー』という本が出版され、三部作のシリーズが完結となりました。本書は翻訳本で、米国原子力分野の第一人者である著者が、原子力の姿を政治色なく描き出した一冊です。
原子力と一口に言われても取っつきにくいはずです。ここでは、本書からひとつトピックを抜粋して紹介します。原子力に対する判断・評価は”読者”に委ねられています。
※ 抜粋コラム ※
『アトミックアドベンチャー』より
高濃度の放射線源から身を守るには?
高濃度の放射線源が及ぼす影響は3つの要因で決まります。すなわち時間、距離、遮蔽です。人体への放射線の影響は被曝時間とともに大きくなります。 放射線源が近くにある時、その危険を最小限にするには、どこか離れた所に行くことです。 線量計が高い値を示したら、走って逃げ、衣類を脱ぎ捨て、鉛遮蔽の後ろにできる限り早く隠れることです。こと放射線防護について言えば、スピードの出し過ぎで死ぬことはありません。 スピードこそが命を守るのです。
たとえ放射線源が大きなものであっても、被曝時間を短縮すれば被曝線量は低下します。 被曝線量の低下は、傷害される細胞数の減少、放射線皮膚炎の軽減、非致死的DNA複製エラーの確率低下を意味します。 放射線の人体への影響は常に確率的です。運を天に任せず、時間短縮を図ることが大切です。
1945年8月12日に起こったハリー・ダフリアンの「悪魔のプルトニウムコア」による被曝事故は有名ですが(『アトミックアクシデント』第2章参照)、彼は5.9Gyを被曝して死亡しました。 この時、警備員のロバート・ヘマリーは、線源から3.6m離れたところにいました.彼とプルトニウムコアの間にあったのは空気だけです。 しかしヘマリーは事故後、そのまま仕事に復帰し、後年老衰で死亡しました。ヘマリーとダフリアンの運命を分けたのは、3.6mの距離でした。距離は命を救うのです。
\アトミック3部作はこちら/
ジェームズ・マハフィー著、医学教育出版社刊
—
※記事冒頭の画像は,東日本大震災後の福島第一原子力発電所を,2011年3月24日,無人ドローン機から撮影したもの