作品紹介
愛娘を病で亡くし悲嘆に暮れる母が、墓前に椿の小枝を刺し「愛が届くなら根づいてほしい」と祈る。本来根づかぬはずの椿は奇跡的に芽吹き、母子の情愛を宿した紅い花を咲かせ、やがて豊かな森となって後世へ息づいた。
作者からの言葉
歴史という大きなうねりの陰には、名もなき武士の家で静かに営まれていた日々の祈りや、親子の情愛が存在しています。どれほど過酷な乱世であっても、我が子を喪った母の悲哀や、それを無言で支えようとする父の切なさは、千年の時を超えていまを生きる私たちの心とも地続きであるはずです。「刺し木はつかない」とされる椿が大地に深く根を張ったというこの伝承は、迷信や奇跡というよりも、現世に残された母の祈りに幼き魂がそっと寄り添った、静かな愛のかたちを描いているように思えてなりません。紅く咲き誇る椿の花に、遠い昔の温もりを感じ取っていただければ幸いです。
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