広沢の日限地蔵 広沢三丁目

広沢の日限地蔵 広沢三丁目

タイトル

広沢の日限地蔵 広沢三丁目

ジャンル

書籍/その他

著者

清水義男

公開日

2026年09月20日

更新日

2026年09月20日

作品紹介

猛暑の広沢郷を襲った疫病に打ちひしがれる百姓たち。行きずりの雲水の導きで草むらに埋もれた石地蔵を掘り起こし、心を一つに祈りを捧げた民衆は、病魔を退け互いに支え合う人間のぬくもりと日常を取り戻していく。

作者からの言葉

広沢の町を歩き、大雄院の参道近く、覆屋の中に静かに佇むお地蔵さまに手を合わせたとき、ふと胸に迫るものがありました。

今でこそ医学が進歩し、病気になれば手厚い手当てを受けることができますが、医薬のままならなかった昔の人々にとって、流行り病(疫病)はまさに村の存亡に関わる恐怖そのものだったはずです。畑の手入れもできず、ただ家の中に籠もり、家族や隣人の命が失われていくのを震えながら見守るしかなかった里人たちの苦悩と絶望は、どれほど深かったことでしょう。

そんな極限のなか、草むらに埋もれていたお地蔵さまを見出し、洗い清めて心を込めて祀り直した旅の雲水と里人たち。民話の形をとってはいますが、ここにあるのは「困窮の極みにおいて、神仏への祈りと感謝、そして人と人との助け合いによって生き抜く力を取り戻していった」先人たちの生々しい心の軌跡です。

台座に刻まれた「願主 野呂伊右衛門 世話人 中里忠蔵」という文字、そして遠く館林から腕利きの石工・佐七を招いて刻ませたであろうその姿からは、一度は救われた村の人々が、その感謝をいかに後世へ伝えようとしたのか、その熱い真心が直に伝わってきます。

今もなお、赤い前掛けを風に揺らし、線香の煙が絶えない日限地蔵尊。日を切って一心に願をかけるその信仰の根底には、何百年もの間、この広沢の地で命を繋ぎ、支え合ってきた人々の祈りが息づいています。地域の片隅にある一つの石仏を通して、ふるさとの先人たちの温もりと逞しさを、今の私たちも感じ取っていただければ幸いです。

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