作品紹介
たき火をする祖父と孫娘。祖父は、火災から不動明王を救い出した荒縄への恩を忘れないため「縄はそのまま燃やすと火事になる」と説く。教えを受けた孫娘は縄の縒りを解き、藁に戻してから火へくべる。
作者からの言葉
この物語は、かつて火災から不動明王の木像を背負い出して救った名もなき若者と、その仏像と背中を固く結びつけていた「一本の荒縄」にまつわる言い伝えを背景に描いています。寺を救った大恩ある荒縄を、使い終わったからと安易に火へくべて焼き捨てるような不義理をしてはならない――そんな人々の信仰心や戒めは、一見すると「そのまま燃やすと火事を呼ぶ」という素朴な民俗伝承・迷信のように受け取られるかもしれません。しかし、その本質にあるのは、物や道具、ひいては命を救ってくれた存在への深い「感謝と畏敬の念」です。荒縄をごりごりと手で揉み、縒(よ)りを丹念に解いて元の藁くずへ戻すというひと手間。それは、効率や合理性が重んじられる現代において見落とされがちな「手間をかけることの尊さ」や「祈りのかたち」そのものです。冬の冷え込む庭で、祖父から孫娘へと静かに受け継がれる温もりと手仕事の記憶を通じ、読者の皆様の心にも、日常の小さな物事に対する愛おしさや敬意がほのかに灯れば幸いです。
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