タイトル
亀が渕の綾 ふるさと桐生のむかし話「ユキ 菱町三丁目」より
作品紹介
不器用と蔑まれる織り子ユキは桐生川の河童に救われ、美貌と機織りの腕を得て主人の息子の嫁となるが冷遇される。絶望したユキは濁流の亀ヶ渕へ身を投じ、河童と結ばれて永遠の平穏を得る。
作者からの言葉
現世(うつしよ)の人の心ほど、浅ましく冷え冷えとしたものはござりませぬ。
機を上手に織れぬとて虐げ、美しき名人となれば欲の皮を張って嫁に据え、あげくは放蕩の夫に泥のごとく踏みにじられる――人間どもの情愛など、まこと頼むに足りぬうたかたの泡でございます。
されど、恐ろしきものと忌み嫌われる水底のあやかし(河童)こそは、娘の哀しみをひと息に吸い取り、ただ純一の慈悲と契りを捧げ申した。
濁流へ身を沈めたユキは、死んだのではございませぬ。あさましい人の檻を抜け、清らかな水の世界へ、まことの夫(つま)の胸へと帰ってゆかれたのでございます。
いまも桐生川の瀬音にまじる機の音は、あやかしと結ばれた魂が紡ぐ、永遠のしあわせの綾にほかなりませぬ。
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