タイトル
「難病と伴に」…或る一介の終活登山小記録:世界遺産屋久島宮之浦岳ジャンル
写真集/風景公開日
2024年05月07日更新日
2024年08月20日作品紹介
本書は、丁度五年前にパーキンソン病と正式に診断された、現在65歳の著者の最期になるはずの山行を、小写真集としてまとめたものだ。現在の病状を鑑み、来年、世界遺産屋久島の中央山岳部に登るのは一層難しくなると判断したからだ。元々本年内の何処かでという漠然としたターゲットを持っていたのだが、腰痛をはじめ体調維持に苦労している現実があり、ならば善は急げということで、昨年秋口から、本年4月中旬の屋久島入りを具体的な目標にして準備を始めた。日本百名山の一座プラス九州最高峰の宮之浦岳登頂・往復日帰りルートにのみ限定、他のオプションは排除し、登頂必達を期した。具体的な準備活動とは、距離、標高、所要時間の観点から宮之浦岳登山をシュミレーションできる本土側山域を歩くことだった。安房港から徒歩圏内の民宿に寝泊り、登攀当日は早朝4時民宿出発でタクシーを手配、既に中程度の降雨の中、1時間後には淀川登山口に立った。其の日の最新の天気予報は午前9時頃には雨は止み晴れ間が出るというものだったが、なかなか陽が差さない。雲の中の登頂は正午5分前、程なく天気は劇的に快晴に転じた。にもかかわらず、撮影した枚数は非常に少なかった。スマホのカメラの機動性と画像の発色性の良さに全面的に降参することは自分を納得させておいたのだが、そのスマホすら重く感じられ、軽度の手の振戦(「ふるえ」の義)の影響もあり、スマホを被写体に向け固定する動作すらままならない。それでカメラ撮影自体を放り投げたくなった。それでも一生に一度のチャンスと自身を鼓舞する。少ない写真の中からやっと紡ぎ出したエピソードがこの写真集だ。余りの短編になったので、準備期間の本土側山行も盛り込み体裁を整えたつもりだが、撮影・選択された写真とパーキンソン病の間に何の関連性も見いだせないのはお笑いだ。
パーキンソン病亢進のどの程度までが登山可能か?という問いは不適当だと思う。一つは、転倒、滑落等の現実的な致命傷のリスクが極めて高いからだ。著者が登山靴を超軽量なものに替えたのは、疲れてくると靴底が地面よりほとんど離れずひきずるような塩梅になり、靴のつま先が地面に引っ掛かり易く転倒に至る(前のめりに転ぶ)ことを恐れたからだ。もう一つは、これは素人考えだが、患者間の症状亢進の個人差に大きな広がりがあり、あなたの場合はこのグループのこのケースですから云々というようなアドバイスは期待できないと思う。いずれにしても、日常の自分自身に対注意深い観察が必要だ。そのような観察をベースに自分で判断するしかない。
著者にとりパーキンソン病とは即ち諦めであり、屋久島はその最終的な諦観に突入する前の最後の足掻(あが)きみたいなものだったかもしれない。幸運なことに天は著者に登頂成功という形で応えてくれたし、漆黒の時刻の帰還も無傷で向い入れてくれた。写真の撮影枚数が云々は些事に過ぎないはずだ。(終り)
偶然、目にとまり拝読させていただきました。山の写真と言葉を目にして心がジワーっと熱くなりました。私はすでに77歳です。遺伝的な腎臓病を持つとはいえ、なんとか平常の生活をしています。しかし山に登る元気はありません。高校生の時代は山岳部で八ヶ岳、北アルプスは大いに歩きました。素晴らしいデジタル出版に拍手です!
暖かいご賛辞を賜り誠にありがとうございました。本格的な登山はもう無理ですが、平坦な登山道であれば数百㍍から1㌔内外の上り下りはまだできるのではないか?可能な場合、どのような方式が可能か?思案中です。また別な写真集が上梓できればお知らせいたします。今般コメントいただいたことに対し重ねてお礼申し上げます。(了)