作品紹介
「笑う花魁」「握られ同心」につづいての第3弾ですが、最終作でもあります。初めは第6弾まで出す予定でしたが、あまりにも素敵に売れ行きがよくないので、半ばにしてポシャリました。
作者からの言葉
「面白くない小説だから売れない」──それは真摯に受けとめているのですが、さて、世の読者がなにを面白がるのかが摑めない。実はこのシリーズ、担当編集者に「これまでのものよりもエンターテイメント性の強いものを、読者受けするものを書いて欲しい。江戸物で捕物帳のようなものを」と。そそのかされ(笑)て書いたのでした。
「よし、やってみよう。プロならば編集者の要求に応じられなくてどうする」と、そこまでは良かった。たぶん、良かった。読者受けする捕物帳を書くつもりでした。……ところがいざ書く段になると、ムクムクと良からぬ思いが立ち起ってきた。「せっかく捕物帳を書くならば、ぼくならではのものを書こう」と。
もうお気づきのことと思いますが、この「ぼくならではのもの」というのが大変にいけない。編集者が要求していたものは、二番煎じでも三番煎じでもよいから、読者受けをする捕物帳をということだったのに、「ぼくならではのもの」というのは、不遜のなにものでもなかった。── 少数派にはエンターテイメントは向かない。少数派が面白いと思うものを、多数派は面白がらない。よって、ぼくならではのものはNGなのである。ましてや、ぼくしか書かない捕物帳などというものは、もってのほか。ぼくにしか書けないとはとんでもない思い上がりで、書こうと思えば誰にでも書けるが、売れないから誰も書かないだけだったのだ。
それでも、「笑う花魁」「握られ同心」はまだましだった。ちゃんと頭にエンターテイメントの意識があった。所々に「ぼくの存在」がチラついてはいたが、面だっては出てきてはいなかった。
ところが、これが最後の紋重郎始末記シリーズと決定した途端に、協調性の箍が完全にはずれた。読者受けを意識して書いた「笑う花魁」と「握られ同心」だって売れなかったのだ。どうせ売れないのなら、最後の「糸のさだめ」は「ぼくならではの捕物帳」を書こうと決めた。──と、言うわけで、エンターテイメント小説ではありますが、思いっきり、ぼくしか書かない捕物帳です。
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