どこかで必ずあなたの本を待つ人がいる

ボイジャーが創業したのは1992年10月です。今年は30年目の道を歩いていることになります。スタートしてすぐに、はじめてのパンフレットをつくりました。当時、全力を傾けていた「日本語版エキスパンドブック」の宣伝のものでした。一枚の大きな紙を折りたたみ、体裁を整えた質素なものです。ここに満天の星をデザインした一ページがありました。今では住所も電話番号も違っていますが、ボイジャー・ジャパンは何一つ変わらずにここにいるのです。

 

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画像を拡大してみてください。そこにアルファベットの星屑がお分かりいただけるでしょう。

 

 

星屑はよく見るとアルファベットの一文字であることがわかります。私たちは小さな一つひとつであり、組み合わさって銀河となり、星座となっていくのだという気持ちを表しています(デザイン:松本弦人)。見開きのページにボイジャーの〝宣言〟ともいえる一文を読むことができます。

 

 

ExpandBook

折り畳まれたパンフを見開くと、デジタル出版草創期に書かれたメッセージがある。

 

 

メッセージを添付しますのでぜひお読みください。書かれている一文の中の「エキスパンドブック」を、「NR エディター」と置き換えて読んでみてください。長い年月を突き抜くように、今でも息づくデジタル出版への取り組みの意気がここにあると確信します。どうか、この一年をまたみなさまと共に手を携えて生きていきましょう!

 

 どこかで必ずあなたの本を待つ人がいる、そう信じることからエキスパンドブックは生まれました。あなたの本は決して多くの人々には読まれない、そう嘆くことからエキスパンドブック・ツールキットは創られました。紙と印刷という人類の偉大な発明がありながら、冷たい機械をとおして言葉を読み取る辛い方法を選ばねばならなかったのは、売れないとわかっても声を発することを諦めたくなかったからです。

 

 人間として私達が世に送りだすすべてが祝福されるものばかりではない、しかしその中にも忘れさることの出来ない大切なことが消えずに残されています。どんな方法を使ってもこれらを届けることは私達の仕事の一つではないでしょうか。テクノロジーを頼った理由がここにあります。

 

 500年前、生まれたばかりの活版印刷は稚拙な揺籃期の技術にすぎませんでした。ルネッサンスのヒューマニストは羊皮紙の手写本を愛し活字本を軽蔑していたといいます。確かに当時の活字による出版は貧弱な手段でした。しかし毅然と本をつくる意思がたとえ貧弱であろうともその手段を必要としていたのです。後に花開く活字文化への確信は稚拙なものの中にさえしっかりと息づいていました。ワープロが姿を現したとき、どれだけの人がこの機械で字を書く毎日を想像したでしょうか。この10年間に言葉を書くという生活スタイルは確実に変化しました。

 

 言葉をおおいに使いたい。言葉を大切な伝達手段と考えるのは、それが私達の一番熟達した手段だからです。満天の星空のような、無数の言葉の宇宙から私達は苦もなく一言一言を紡ぎだします。これほど力ある幅広い可能性をいまだたたえている手段がほかに与えられているでしょうか。この言葉をもっと自由に使うために新しいテクノロジーを利用しようと思います。

 

 やがて言葉を読むというスタイルにも大きな変化がおとずれることでしょう。最も期待するのはどんな機械を使うかということではなく「書く」ことと「読む」こととの間にある隔たりが限りなく近づいていくことです。私達は書き手であり、同時に時代の証しを探る読み手でもあるのです。それが人間としてのあたりまえの生活であることを願います。エキスパンド・ブックはそうした試みの一つとしてあり、この仕事に参加するすべての人たちに利用されることを待っているのです。

 

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