三遊郭中編文学集Ⅴー楽天

三遊郭中編文学集Ⅴー楽天

タイトル

三遊郭中編文学集Ⅴー楽天

ジャンル

書籍/文芸

著者

三遊郭

公開日

2021年05月22日

更新日

2021年05月22日

作品紹介

「想苑」「エデンの港」の二作品蒐集。
「想苑」は間違いなく、三遊郭の代表作の一つになるでしょう。家庭崩壊を前に奮起した父の背中を見て育った少女の物語。「エデンの港」は作者の近況を作品化したもの。ただし三遊郭は、何十年も函館には戻っていないです。恋人とこうであったらどうであろうという想像力で描いた作品。二作品とも函館を舞台にしております。函館は三遊郭の心の投影された、呼吸の楽な、夢のような街。この地は私のライフワークになっている第二の故郷です。

作者からの言葉

作品の一部紹介
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
想苑

三遊郭

まえがき

枝を掃(はら)った森の公園の北隅(きたすみ)に、コンクリート製の大蛸(たこ)の滑り台がありました。子供達はそこを蛸公園と呼んでおりました。公道(こうどう)を挟んで東側には、飛行機のジャングルジムが置かれてありました。子供達はそこを飛行機公園と呼んでおりました。函館にこんな児童公園があったかしら?
おそらく余所の街のオブジェの話でありましょう。

年老いた男性が、襤褸(ぼろ)の余所行きを着て、芸術の径(みち)のベンチに腰掛(こしか)けておりました。掌には向日葵(ひまわり)の種を乗せておりました。エゾリスたちはこの老人を既に覚えておりました。「餌(えさ)をくれる人」。今にも崩れ落ちそうな身体をやっと起こしながら、この老人はベンチで腰かけ、昼寝(ひるね)をしておりました。きっとどこかの一人暮らしなのでしょうか? 公園の木々が、ざわざわと葉音(はおと)を立てておりました。リスは老人の頭に乗ったり、膝(ひざ)に乗ったり、肩に乗ったりして…。老人は彼らを邪険(じゃけん)にはしませんでした。7~8匹のエゾリスたちでありました。
北海道では宿無(やどな)しは、凍(こご)え死んでしまいます。ですから、浮浪者(ふろうしゃ)は、この街にはおりませんでした。

老人はガクッと頭(こうべ)を下げておりました。


呑兵衛の父よ。蘇(よみがえ)ったであろうか?
私はかくありたい。
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エデンの港

三遊郭

まえがき


学ばぬ事を糾弾(きゅうだん)する声が多くなりました。
私は反省しなければいけないのであろうか?
時が波打(なみう)っておりました。


神が目覚めました。

反省するのにも、才能が必要なのです。

「才能は、形にしなければ、盗られぬ物。」神はそう呟きました。
「形にしなければ、盗られるではないのですか?」 凡夫(ぼんぶ)は神の説教(せっきょう)を待っておりました。
「命とは形を成す事。」「命とは時を得ること。」「死とはこれらを失うこと。」

「盗むとは、人の命を奪(うば)うこと。」


故郷ってなんだろう?

私はそれを、すっかり忘れているのかもしれない。

十勝に居て、すっかり咽が乾いております。

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