三遊郭中編文学集 Ⅳ

三遊郭中編文学集 Ⅳ

タイトル

三遊郭中編文学集 Ⅳ

ジャンル

書籍/文芸

著者

三遊郭

公開日

2020年12月08日

更新日

2021年04月25日

作品紹介

「Friday Night Fantasy――FMくじら」「Dear My Vegy Mary――おびひろ動物園 かくれんぼ」「梟とチーズ工房」の三作の蒐集。
北海道の函館と帯広、横浜を舞台に展開。
「三遊郭中編文学集Ⅲ」以来、久しぶりに文壇に登場。
どちらも私が故郷と呼んでいる、函館、帯広の一生の今を切り取った作品。
三遊郭中編文学集Ⅰ~Ⅲ、刑事甘露王で語られていた難解な哲学の世界を脱し、平穏な日常に戻った私の作品群です。
小説の立ち読み
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★Friday Night Fantasy――FMくじら★



本当に私で良いのかしら?
もう、記憶が断片化しています。若いのですが…。

昨晩随分遅くまで、小説の推敲をしていました。私の職場、FMくじらと函館山(やま)の麓をイメージした物を書いています。

Jは「イタリアン レストラン 北極熊」を経営する、プチ引きこもりの大学中退者でありました。彼は、船見(ふなみ)町(ちょう)の父母の住む自宅に暮らしています。私は弁天(べんてん)町(ちょう)の新古モダン住宅に父母を連れ込み、住んでいました。父母は普段は横浜で、店と発明寄席(インキュベーション)を経営していました。
彼のレストランの親会社はダダ○物産。親友は大介さんだけでありました。大介さんは、かねご○ん食品に務めていました。鰊(にしん)漬(づけ)、烏賊(いか)塩辛(しおから)、烏賊(いか)飯(いい)鮨(ずし)、雲丹(うに)烏賊(いか)の製造を行っていました。

私は、デジタル1眼レフカメラを三脚に取り付け、無線シャッターを静かに押しました。情景は、函館の夜景。職場がロープウェー乗り場にあるコミュニティーFMラジオ局なので、仕事が明けた後など、晴れた夜景を目当てに、すーっと山頂まで登ってしまえます。気分が沈んだ時には最高の気晴らしになるのです。
FMくじらは、函館山の麓のロープウェーの発着所の脇(わき)に、建物がそれと一体となった形で存在していました。このFM局は1996年に開局しました。ロープウェー会社の子会社として始まりました。私はそこで女性パーソナリティをやっていました。

私の若い頃は、クラブとは言わずに、ディスコと呼んだ時代でした。私の父母は、ゴーゴーの時代の人でありました。私はそういう年齢であったりします。2010年に、入局しました。

これから寒くなってきます。
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★Dear My Vegy Mary――おびひろ動物園 かくれんぼ★

鳥の囀(さえず)りが聞こえていた。陽光から、雲がはみ出ている。西の空には、雲に欠けた月が浮かんでいた。最近は朝、月に魅入(みい)る時を持てていなかった。近年、月が大きく見えることだけは、理解しておりました。

雌象(めすぞう)のナナが大きな叫(たけ)び声を上げた。

彼と私は帯広緑○丘公園の雑木林の中を、手を繋(つな)いで歩いておりました。この森は、エゾリスとエゾシマリス、エゾモモンガの大切な住処(すみか)でありました。

その森の扱いを、私は「企画」しようとしています。

彼氏は宮大工だった。同じ高校の1学年上の先輩でありました。

彼は「切れているカマンベール」をタッパから出して、私に渡しました。
これがもしタバコを差し出す彼であったら?

カマンベールを差し出す彼に、女性としての私は、笑みしておりました。

※  ※

「私、あの街の相撲(すもう)大嫌い」。
私は、彼を思いながら、同性の親友に語りかけておりました。

彼は体の大きな人だった。背は高くはないけれども…。

※  ※

「私は十勝天寿野牛の熟成赤身肉が好きなの」。

行きつけの家内の石(いし)釜(がま)で、ローストビーフが焼きあがっていた。

私の企画の中には、「十勝(とかち)天寿(てんじゅ)野(の)牛(うし)」「十勝天寿野豚(ぶた)」「十勝天寿野馬(うま)」「十勝天寿野羊(ひつじ)」「十勝天寿野山(や)羊(ぎ)」「十勝天寿野地鶏(じどり)」などというものがありました。家畜の天寿を売りにできないかと考えたのです。

※  ※

彼は地元の工房の発酵牛酪(ぎゅうらく)(バター)を御飯に塗(まぶ)して、更に醤油を垂らし、食べておりました。おかずは牛酪の他にもありました。「キムチ」。「沢庵漬け」。「味噌汁」。
そんな道産子(どさんこ)食いをしている彼を見ながら、帯広の広小路(ひろこうじ)商店街の再生に関しても、止めどもなく考え込んでおりました。

今食べている彼は、美味しいものに目がなかった。
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★梟とチーズ工房★

まえがき

横浜中華街(ちゅうかがい)の月の夜。満月が豚さんのお尻のように見えました。食べたら美味しそうだけれども、私は神様が好きでしたから、我慢(がまん)することにしました。
北の街。小学1年生。今住んでいるこの場所の丸い食べ物は、全てお父様が作った物。美味(おい)しいに決まっているのです。
今晩は、おでんを食べました。一寸(ちょっと)南に行くと、昆布の茂(しげ)った海が始まります。近所の海は、とろろ昆布と雲丹の産地です。軍艦巻きに雲丹(うに)の身を乗せ、それに少しのとろろ昆布(こんぶ)を乗せます。私は「軍艦(ぐんかん)十勝(とかち)丸(まる)」と呼んでいます。美味しいのですよぉ。

夜中(よなか)布団(ふとん)の中で、アビーが私の横で眠ってくれるので、私はちっとも寂(さび)しくなんかないのです。
海沿(うみぞ)いの陸地(りくち)に、沼があります。世界最大のシジミが獲れるので、旬になるとそれを食べて、私はぐっすり眠ります。

私の夢は、動物のお医者さんになること。だからお父様が私をこの土地に呼んだのです。

お父様と私は、今から私が大学に行くためのお金を貯めるために、食べ物は自分で作っておりました。買い物は不揃(ふぞろ)いなもので満足していました。
火の通り加減は、包丁(ほうちょう)次第(しだい)。
お父様は、お店が上手くいっているのに、美味しい物を作るために横浜の家を出ていってしまいました。

私はこれから、お父様と帯広市に一緒に暮らします。

作者からの言葉

想像の世界でしかない、女性の世界を描くのが、私の見せ所。三遊郭は、女流文体小説が得意な、男性作家であります。因みに、私は性的マイノリティではありません。でも、女流文体は得意です。どうぞご一読を!

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