オッペンハイマーを知っていますか?


ちくま学芸文庫より『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』藤永茂(ちくま学芸文庫)という本が発売されます。1996年に朝日選書から出版された同名書の改訂版です。

本書の紹介として、「オッペンハイマーは死神だったか」という文が掲載されています。

 

ロバート・オッペンハイマーという名前を知っていますか?

知っている人は、どんなイメージを持っているでしょうか?

「原爆の父」というのがオッペンハイマーにつけられた二つ名です。

 

しかし、原爆という世界を破滅させかねない兵器を生み出した罪を、誰かひとりに責任を被せることにどんな意味があるのか?

 

 前掲「オッペンハイマーは死神だったか」から引用します。

 

 私が見定めた答は簡単である。私たちは、オッペンハイマーに、私たちが犯した、そして犯しつづけている犯罪をそっくり押しつけることで、アリバイを、無罪証明を手に入れようとするのである。オッペンハイマーは「原爆の父」と呼ばれる。これは女性物理学者リーゼ・マイトナーを「原爆の母」と呼ぶのと同じく愚にもつかぬ事だが、あえてこの比喩に乗りつづけるとすれば、オッペンハイマーは腕のたしかな産婆の役を果たした人物にすぎない。原爆を生んだ母体は私たちである。人間である。

(中略)

 オッペンハイマーの生涯に長い間こだわりつづけることによって、私は、広島、長崎をもたらしたものは私たち人間である、という簡単な答に到達した。私にとって、これは不毛な答、責任の所在をあいまいにする答では決してなかった。むしろ、私はこの答から私の責任を明確に把握することができた。唐木順三の声高な非難にもはっきり答えることが出来るようになった。「物理学を教えてよいのか、よくないのか」という切実な問題に対する答も出てきた。「物理学は学ぶに値する学問である」。

 

個人的な経験になりますが、私が高校生の時(40年近く前)、科学の授業中に先生が「戦争があると、科学が急激に発展するから、たまには戦争もいいよな」と発言し、それに逆上した若かりし私は「ふざけるな! 戦争がいいわけないだろう」と怒り狂い、それ以降化学の勉強をボイコットして、文系志望に変更したという過去があります。

今なら、もちろん、その先生の考え方を拒絶すること「化学は学ぶに値する学問である」ことは両立するってことは理解しています。

 

さて、本書の著者、藤永茂さん、ボイジャーのRomancerで『オペ・おかめ』『トーマス・クーン解体新書』という2冊の本を出版しています。

 

私は、幸運にも2年前に藤永茂さんにお会いする機会がありました。

なぜ出版の手段としてボイジャーのRomancerを選んでくれたのか?

「出版社は売れる本しか出さない。でも何が売れるかはわからない。が、売れない本はわかるので出してくれない。だから売れない本でも形にしてくれるボイジャーはありがたい」と。

それこそが、ボイジャーの、Romancerの目指しているところです。

こう言ってもらえるのは本当にうれしいことです。

 

 

小説『オペ・おかめ』。

アメリカ大統領とイスラエル首相が会談中に、人工蜂鳥によって攻撃される。そして関与していると思われる東洋人、その背景にあるものとは?

もちろん、フィクションですし、私小説でもありません。しかしオッペンハイマーの生涯に長い間こだわりつづけた科学者としての視点が、この小説の特徴です。

 

オッペンハイマーについて、ボイジャーでは「ヒロシマ・ナガサキのまえにーオッペンハイマーと原子爆弾ー」という本も出版しています。

 

最初は1995年に、米ボイジャーで、ドキュメンタリー映画『The Day After Trinity: J. Robert Oppenheimer and the Atomic Bomb』を元にして「エキスパンドブック」という形式のCD-ROMが作られ、その日本語化にあたって、翻訳を担当した、青空文庫の創始者、富田倫生さんによって作業メモ「マンハッタン計画への道」が追加されました。

 

その後、電子書籍のフォーマットの変遷とともに、映像部分を除いて、資料部分を再編成し、現在は世界標準フォーマットのEPUB 3という形式で、理想書店その他の電子書籍書店で販売中です。

収録されている「主要関係者全証言」では、オッペンハイマーのことを周囲はどう思っていたかなども知ることができます。

 

 

(文・小池利明)