94歳の歌舞伎ファンが出版! 50年にわたる観劇の記録

今回ご紹介するのは、山田凉子著『珠玉天王寺屋――五世中村富十郎』。

歌舞伎役者といえば中村勘三郎や市川海老蔵といった有名人がいますが、その芸の巧みさにおいて、中村富十郎を忘れてはならないでしょう。本作は、彼の舞台をずっと追い続けた観劇記録です。

 

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山田凉子が歌舞伎役者・五代目中村富十郎の舞台を初めて見たのは昭和三十五年。今から58年前のことになります。初舞台で、当時鶴之助と名乗っていた富十郎を見た彼女は、こう語っています。

 

当時三十歳、美しく立派で男らしく貫禄があって踊りのうまさ、口跡の爽やかさ、逞しさ、そして悪の色気に完全にとろけてしまったのだった。

 

これ以来、彼女は50年に渡って富十郎の舞台を見続けることになります。一人の役者にこれほど情熱を燃やすファンが、どれほどいるでしょうか?
現代の私たちも、俳優や歌手、アイドルなどの追っかけをします。AKBやジャニーズなどの熱心なファンをしている人もいるでしょう。しかし、50年の間、子を持ち孫が生まれても、一人の役者を追い続ける人は、そこまで多くないのではないでしょうか。その間ひたすら観劇記録をつけ続けるとなれば、なおさらです。

 

歌舞伎のことを知らない人でも、この本にこめられた芸術への愛と熱意、舞台を越えて紡がれる役者との絆は、きっと伝わるはず。読むと歌舞伎を見に行きたくなるような一冊です。

 

この本の著者の山田凉子は、『グイン・サーガ』、『伊集院大介』など数々の小説を書き続けた作家、栗本薫・中島梓の実の母でもあります。芸術への造詣の深さは、母から娘へと受け継がれたのかも知れません。富十郎とも、一ファンに留まらない親密な交流がありました。

 

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左から著者、栗本薫、中村富十郎

 

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