いろいろと表紙を考える

「定年」という言葉を見ない日、聞かない日はない、そう言っていいくらい流行っている。そんな言い方をして大変申し訳ない。ごめんなさい……だが、「定年」もダイエットのように本の商売種になっているように見えて仕方がない、人の苦境をながめて。こんな本と私たちが出版する「定年」の本は同じであって欲しくない。そう思って一生懸命考えをめぐらした。イラストレーターのヘロシナキャメラにお願いすることになったのも、彼が持っている何かしたたかな心根の強さに応援を頼もうとしたからだ。ヘロシナキャメラは私たちの意見に耳を傾けてくれた。そして人生は測量のようなものだろうという私たちの結論をまとめてくれたのだ。ラフが上がってきた。一人の男が棒を持って立っている。棒には年代という目盛りが刻まれている。レンズを覗く後ろ姿は妻らしき女性がいる。手を動かしあっち、こっちと指図している。

 

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うーん、何をしているのやら……でも決して笑えるようなユーモアというものじゃない。一抹の哀感が男の表情に見ることができる。その上でディテールを考えていくことにした。真っ先に話題となったのは、これはデジカメで写真を撮っているように見えてしまわないか? 測量に見えなくてはいけない。奥さんにしてはスラッとしすぎ、もっと太めがピンとくる。三脚の上の測量機も研究した。進化したものがどんどん生まれているようだ。でもやはり見慣れた一般性のものであるべきだろう。手前の原っぱも表現が何か平凡だ。鳥などいては長閑すぎる。年代を指し示す男の後ろには、どこまでも続く曲がりくねった道があるべきだ……なんだ、かんだと意見は出尽くした。そして出来上がってきたのが次のイラストレーションだった。

 

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実直に長い年月を勤め上げ、早期希望退職に応じて新たな人生を歩みはじめた経験を語る。そんな本を世に送り出す立場として、表紙こそとっても大事な一歩であるだろう。楽しいわけじゃない、けれど悲しいわけじゃない、どうあろうと避けることのできない年齢という私たち誰もが背負うもの。この気持ちの共通性にどこかで繋がって、1ページを開いていただきたい。

 

余談ではあるがひとつお話を付け加えておきたい。この本は紙でも電子でも出版される。デジタル本には裏表紙というものはない。けれど、紙の書籍にはある。そこで、ヘロシナキャメラに一案いただいた。こんなものだった。

 

 

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ぐいぐいと引っ張るおかみさん。ワレ行かじと足を突っ張るお犬さん。どうも、これは作者の気持ちに馴染むことができなかった。どうしよう……戸惑いながら出した結論はこれっ。哀愁が出過ぎちゃいませんか? うーん、みなさんがどう判断されるのか。たかが表紙とおっしゃるかもしれません。けれど、それなりにアイデアを出しながら、苦しんで、イヤ、楽しんでいたのです。

 

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『あゝ定年かぁ・クライシス』

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なんとか苦心の上に一つの作品を書き上げた。その作品を世に送るとき、表紙は顔にも値する働きを持つものです。お悩みの方はRomancerの私たち制作チームに連絡をしてください。

 

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イラストレーション ヘロシナキャメラ

Twitter @heroshina