若山富三郎さんのマイ・ラスト・ソング

テレビの黄金期、ドラマの演出家として活躍した久世光彦さん。彼はその晩年に『マイ・ラスト・ソング〜あなたは最後に何を聴きたいか』というエッセイを書いています。その中に俳優の若山富三郎さんの話があります。若山さんは亡くなる二日前、勝新太郎さんと京都のクラブへ行き、最後に「時の過ぎゆくままに」を歌ったそうです。この歌は若山富三郎さんが出演したドラマ「悪魔のようなあいつ」の主題歌で、作詞は阿久悠さんです。

 

阿久悠と相談して、まず「時の過ぎゆくままに」というタイトルを決めた。「カサブランカ」の「As Time Goes By」からのいただきである。でき上がった詞を六人の作曲家に渡してそれぞれ曲をつけてもらった。荒木一郎、井上堯之、井上忠夫、加瀬邦彦、都倉俊一、大野克夫という錚々たる顔触れで、できてきた曲はもちろんどれも魅力のあるものだったが、阿久悠と二人、一晚聴き比べて大野克夫のものを選ばせてもらった。だいたい、一つの詞に何人もで作曲するなどという贅沢な作り方は、昭和五十年の当時だってめったにあるものではなかった。おかげで、ドラマは当たらなかったが、毎回ラスト・シーンで沢田が歌うこの歌はヒットした。日本では珍しく、乾いたデカダンスが漂う歌だったと思う。いまでも、あのうねるようなイントロを聴くと、沢田の酷薄な美貌が薄闇の中から浮かび上がってくる。

 

久世光彦著『マイ・ラスト・ソング〜あなたは最後に何を聴きたいか』より

 

このエッセイ『マイ・ラスト・ソング』は、2008年11月から小泉今日子さんの朗読と浜田真理子さんのピアノ弾き語りにより、繰り返しライブとして上演されています。2018年3月、はじめてテレビ番組となります。お見逃しなく。

 

NHK総合 3月28日(水)午後10時00分〜午後10時49分
出演:小泉今日子、樹木希林、満島ひかり、又吉直樹、浜田真理子、奇妙礼太郎