お師匠様、あれは二万年前に絶滅したはずのゴジラですわ!

BL小説家、コミックの原作をへて、セルフパブリシングに活動拠点を移している檜原ひはらまり子さん(Twiter @enjugroup)が、中島梓さんの名著『小説道場』の読者であったことがわかりました! プロの作家にとって『小説道場』とはどんな作品だったのでしょうか。

 

「ダイジュネ」「ショウジュネ」という響きを知っている人は相当なバーサン(もしくは希にジーサン)ではないかと思うが、わたしはまさに「JUNE」という言葉が生まれた時代に青春を送った、と言っておこう。もちろんこの本を手に取る人は、「JUNE」の意味をご存じだろうが、要するに「男性同士の愛を扱った」コンテンツ(マンガ・小説)のことだ。はい、ご想像通り、原点はフランスの作家ジャン・ジュネであります。

 

「JUNE小説(女性向け男性同士の官能小説)」は当時、雑誌「小説JUNE(略してショウジュネ、で、コミック雑誌のほうが大ジュネ。理由は…B5版だったから)」にしかなかった。そのジャンルが好きな読者はこぞって「小説JUNE」を読んでいた……のだが、実はわたしはその時はまだ「男性同士の官能小説」にまったく興味がなかった、と告白しておこう。そのわたしがなぜ「小説JUNE」を読んだかというと、温帯(これも懐かしい呼び方だなあ)の「小説道場」目当てだったからだ。

 

後年「商業BL作家」になったわたしだが、当時はまだ小説を書いておらず、自らが主催する同人誌でコツコツとへたくそなマンガを描いていた。

にもかかわらずなぜ「小説道場」の読者だったかというと、もちろん小説の作法もだが、物語を造る基本を温帯がこの道場で実にわかりやすく示してくれていたからである。マンガの構想を練る際にとても参考になった。

温帯の指南は手厳しいことで有名で、小説道場に投稿する人は皆マゾではないかといった有様、しかしそのあまりに的確な一言は「名言」となって記憶に残っている。たとえば、「ボクの日記帳を読ませるんじゃねえ」なんかは、後年「字書き」となってからは自戒のためにしばしば思い出す。「ご隠居編」にも再登場したが、「お母さま、あれは二万年前に絶滅したはずのゴジラ(だったか忘れた)ですわ」にも爆笑した。

 

今回配信されたのは、温帯が道場主を引退してからのものとのことで、もうその時にはデビューして書く側となって忙しくなり、なぜBL作家としてデビューしたかは自分語りになってしまうのでここには書かないが、小説JUNEからは足が遠のいていたのでこの本のことは存じ上げなかった。良い機会を頂き、青春時代に思いを馳せつつ読ませていただいたことに感謝する。

 

さて肝心の本の内容であるが、相変わらず切れの良いかつわかりやすい指南だ。投稿作品を例に、文章の技法に加え、破綻しない世界観の作りかた、ご都合主義になぜ陥るのか、思いつきだけでは小説にならない、などにも具体的に言及しており、小説家を目指す人だけでなく、コミックやその他物語を造る人たちにも大いに役立つのではないだろうか。

 

ただ今どきのBL小説への苦言、気持ちは解るのだけれど、もはやLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの略語)という言葉が市民権を得、温帯の重視する「男同士であることの必然性」「禁断の愛と葛藤」は時代に求められなくなってきているとも思う。逆に門戸は広がっていると解釈してもいいのではないか。今から商業BL作家を目指す人は、苦言に惑わされず頑張って欲しい。

またラストの章、わたしも温帯とほぼ同時代のバーサンなので、「プロ作家たるものは」における彼女の嘆きに共感はするが、昔の価値観を今の若者に押しつけてはいけないとも思う。平成すら終わろうとしているのだから。

 

9784862398024

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自己紹介

オワコン作家。BL小説を主にBL漫画の原作とラノベも少々。

1.17と地下鉄サリンに衝撃を受けて字を書き始め、3.11の衝撃と部数の減少で商業作家からデジタル自主出版に転身。

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