10月14日に『それでは小説にならない』の出版を記念して、著者の今岡清さんがトークイベント「SFなんでも箱 #48」にメインゲストとして参加しました。
「SFなんでも箱」は、池澤春菜さん(声優)と堺三保さん(評論家)のお二人が毎回異なるゲストを招き、2時間、SFについて語り合うイベントです。来場の方々はみなさんSF愛好家で、どんなに実名を隠して話しても半数以上の方にはバレてしまいます。
ということで、どれほど怖いところかと思いきや、堺さんは学生のころから今岡さんとお知り合いだったとのことで、イベントは終始和気あいあいとした雰囲気でした。
左:堺三保さん、中央:今岡清さん、右:池澤春菜さん
「SFなんでも箱」は新宿 Live Wire HIGH VOLTAGE CAFE で月1回行われているSFをテーマとした約2時間のトーク
イベントで語られた内容をふたつほどご紹介しましょう。
まず、栗本薫さんの代表作「グインサーガ」の続編についてです。実は、今岡さんは栗本薫さん(別名 中島梓)の旦那さまなのです。堺さんは今岡さんに、「グインサーガ」の続編を書いている作家に対してどのような方針を示しているのでしょうか、と質問しました。
今岡さんは、誰が書いても栗本と同じに書くことはできない。また、ゴーストライターのような書き方は望んでいない。複数の作家が書いた外伝を例にあげれば、どれも栗本とは違う作品となっている。実はこれらの外伝は、栗本の死後、どのような創作が可能なのかを見極めるためのプロジェクトだったんです、と答えました。
ふたつ目は今流行っている小説の構成についてです。
今岡さんは、自分が編集者だった時代には、小説の冒頭にいきなり設定を書くのはやめるべきだと作家に言い聞かせていた。設定がどれほど面白くても、それを本文中にくどくどと書いてきたら、こことここは切った方がいいんじゃないと諭していた。しかし、今は設定を説明するタイプの小説が増えているように思う、と話しました。
登壇者三人の意見は、この現象はアニメや小説の読者がゲームから強い影響をうけた結果なのかもしれないとまとまりました。
そして今岡さんは作家の葛藤についても話しました。
小説には、葛藤を抱えた主人公がいろいろな仕打ちに耐え抜いて最後の最後逆転して、成功を手にするという王道のパターンがあるのだが、その葛藤が減っている。何を書きたいのかわからない作家が増えてきているのではないか。葛藤と関連するのだけれど、実は10月20日に刊行する電子本『小説道場ご隠居編』はハッピーエンドばかりの小説への栗本の怒りだったのです、という裏話が飛び出しました。
ここでもまた登壇者三人の意見は、ものごとすべてが都合よく進むのは、基本わらしべ長者や桃太郎と同じ。今流行りの投稿小説サイト生まれの物語は桃太郎に似ている。理由もなく鬼ヶ島を目指し、おばあさんから、たまたまもらったきびだんごで努力もせずに旅の途中で仲間を集め、鬼と戦って勝つ、ということだとまとまりました。
そのあと今岡さんは、一方、歴史を見ればこうした同じ傾向のものが流行し、その中からふと新しいものが生まれていくものだ。きっとこれからそういう作品が出てくるのだと思います、と話しました。
小説の世界を少し離れて客観視している今岡さんだからこそのまとめでした。
明るく楽しいBLに喝!!
栗本薫『小説道場ご隠居編』を試し読み
作家の資質、名作の条件を知る1冊
『それでは小説にならない』を試し読み