ブナの美林を見ることはない。林が人々への恩恵につながるのは、苗が植えられて何十年も経た後のことだ。当然、植えた人はこの世にもういない。それなのに人はどうして木を植えるのだろうか。後世に何かを継なげたい、残すべきことを今やる、ということだろう。聞いて耳が痛くないか。そういう人は続きを読んでほしい。
カナダのアニメーション作家『木を植えた男』のフレデリック・バックが描いたスケッチがボイジャーの仕事場に飾られている。『木を植えた男』の話は知っている人が多いだろう。あの素晴らしいアニメーションに胸をうたれた人も少なくはないはずだ。人知れず種子を植え続けるエルゼアール・ブフィエと言う、その男の姿を詳細に記述する物語だった。男は常に種子を選び、良質なものを小さな袋に入れて山野へ出かけて行く。物語とはいえ、作家の目を通して語られるノンフィクションのようでもあった。ボイジャーのスタッフの多くは、このアニメーションをレーザーディスク出版したパイオニアLDC(1981~2003)の出身者だ。
ボイジャーの仕事場の風景
何気なく壁に掛けられたフレデリック・バックのスケッチ
フレデリック・バックは1988年、パイオニアLDCの招きで来日し、『木を植えた男』のスケッチを私たちに残していってくれた。しかし会社の譲渡によって、かつての製作に関わる資料や思い出の品々は失われていった。会社の変遷によってこのスケッチも廃棄の運命にあった。ボイジャーに移籍した一人のスタッフが、寸前にこれを見つけ救い出し、スケッチは私たちの職場に運ばれることになった。
男が手にする小さな種子を共有したいと思う。小さな豆粒の種子しか今の私たちの手にはない。けれどこれが希望だ。そう願って『片岡義男 全著作電子化計画』の支援者募集を呼びかける際に、フレデリック・バックが描いたスケッチを掲げてみた。計画は長い時間を要するだろう。ブナの美林はずっと後だろうことを覚悟して支援者になっていただきたいと伝えたかった。
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『片岡義男 全著作電子化計画』
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