名もない星を見上げよう

 そこに精一杯の輝きを確かめるようなひと時を、あなたはこの一年にもてただろうか……? 絶え間なくあくせく追われながら、目先だけを見ることで一年を終えようとしてはいないか。

 

 見上げてごらん夜の星を*……Romancerに公開された作品の数は980を超えました。瞬くようなその光は夜空の星のようです。そっと抱きしめてみると、寒空に立っているあなたの胸でチカチカと弾けあうことでしょう。ちょっぴりと胸に痛みを伝えます。ちっぽけだが生きているナ……これが忘れていた大切な感覚なんだと我にかえります。

 

nanohana

咲き乱れる花を描き続けたRomancer 作家・加藤忠一さんの作品 “菜の花” 飯山市

相模原市のギャラリー「花の群落展」より

 

 Romancer作家の一人、加藤忠一さん。鉄鋼会社で研究職として働き定年を迎えました。会社に残ってくれと惜しまれながら、これからの人生を考えた彼の選択は、研究した鉄の防蝕……その原型であったブリキとトタンの歴史を辿ること、ふるさと福井の機織りへの想い、そして歩いた全国の野辺に咲いた花の群落を絵筆に留めることでした。これらのストーリーとアクリル淡彩の絵は、ことごとくデジタルの本となりました。粗末な薄っぺらな鉄板に秘められた歴史、その鉄板と私たちの深い生活の絆。これらの話を誰かが書き残さなかったなら、知ることもなしに過ぎていったに違いありません。それはどこかの山奥に一瞬にして開花し、一瞬にして目の前から消え去っていく花の群落と同じ運命だったかもしれません。

 

 そのむかし高校生だったころ、教室の席に自分以外の誰かがそこに座っている感触を経験しまた。それはそのはず、私は全日制普通科の一人でしたが、学校には定時制というもう一つの顔があり、両者は時間をずらせて成り立っている学校の姿であったのです。二人は決して顔を会わせることはなく椅子に残る不思議な感触と、時折、机に描いたいたずら書きに続きを書き加わえる、かすかにお互いをつなぐ間柄にすぎませんでした。

 わずかな気配や物音に耳を澄まし、目を凝らすことの大切さを今こそおもいます。すべてこれらは私たち人間の生まれながらにしてもっている姿の一部なのです。研ぎ澄ます心をもってこそ初めて見えてくる……輝きは発見からうまれてくるのです。どんな一年であったことでしょう。名もない星を見上げて、過ぎていく一年を一緒に見送りましょう。

 

Romancer推進担当 萩野正昭 

 

*(注)永六輔といずみたくのミュージカルの主題歌。1963年坂本九が歌い大ヒットした。編曲は渋谷毅。集団就職し定時制高校に 通っていた生徒たちはこの曲に励まされたという。