戦争は自然にはじまり、自然に終わるわけじゃない。誰かが仕掛け、どちらかの屈服によって終わる、とても人為的なものであり原因と結果をもっています。私たち日本に即して話すなら、8月15日を忘れる人はいません。この日に至る原爆投下でおびただしい市民の命が奪われたことを言わない人もないです。なぜこうなったか、原爆投下の原因はどこにあったか……しかし同時にそのことを問う人はごくわずかです。戦争には直接の原因があります。1941年12月8日の真珠湾攻撃がアメリカと私たちが戦った原因であったことは明らかです。日本人の多くは忘れています。あまり口に出そうとはしない。だから言いたい、今日はその日なんだよと。
真珠湾に沈む戦艦アリゾナ。
今もなお戦争の忘れがたき記憶として残されている。
デジタルの本を読むリーダーBinB(Books in Browsers)は、日米開戦70年の2011年12月8日に正式スタートしました。出版がWebにシフトすることを確信して、思い切った決意からのことでした。そして、BinBで読む最初のデジタル出版として、私たちボイジャーは黒澤明、小國英雄、菊島隆三が書いた幻のシナリオ準備稿『虎 虎 虎』をネット上に公開したのです。このシナリオは200字詰め原稿用紙960枚という大部なもので、映画の脚本というよりも真珠湾攻撃へ至る当時の現実を克明に記録したものでした。黒澤明の監督降板という事情から関係者が口を噤んでしまったため、多くの事実が明らかにされないままシナリオは葬り去られてきました。スチュアート・ガルブレイス4世の『The Emperor and The Wolf』の記述の中から、ロサンゼルスの映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)マーガレット・ヘリック図書館に『虎 虎 虎』準備稿として寄贈されていることがわかりました。シナリオの存在を明かす一文をみつけたのは、『大系黒澤明』全5巻(講談社刊)の編者、東京大学大学院教授だった故・浜野保樹氏の調査によるものでした。シナリオ準備稿『虎 虎 虎』のゼロックス・コピーは、執拗な交渉の末にやっと日本へ持ち帰ることができたのです。そんな裏話がここにはあります。
Romancerは、何かに果敢に挑む気持ちを勇気づけようと生まれました。決して結果だけを云々するのではなく、その原因にさかのぼって事実を掴み、人々に伝えようと記録する心と手を組みたいと願ってつくられたのです。12月8日のこの日に、その決意を振り返り記憶を新たにしたいと思います。