これからどうなるのか? 1992年10月。まるでわからずに、それでも高らかに「電子の出版社」現る!と宣言しました。ボイジャーのスタートはそこからです。もう24年が経つのです。誰かに助けてもらおうと、人に会う毎日が続きました。そこに長い髪を金髪に染めた、見るからに異形の男が現れました。S-Fマガジンの編集長だというではありませんか! 何か力になってもらおうと、これからのデジタル出版の世界について熱を込めてお話ししたのです。
VOYAGER設立の案内状 1992年
「そうですね、面白そうですね……何かやりましょう」
この言葉を聞いて、やったぜと心が躍りました。何かやりましょう……しかし、この言葉をその後いろんな人からなん度も耳にしました。10回、20回どころじゃないでしょう。もしかしたら百回かもしれません。そして、最後にくっ付く「そうですね、面白そうですね」のこのスネ言葉も、何千回も聞きました。二つは、何も起こらない明らかな前触れといっていい兆しです。ご存知なければどうぞご記憶のほど、ご注意召されたし。
(中央)元S-Fマガジン編集長 今岡 清さん
当時このS-Fマガジンの編集長は今岡 清さんです。その後、彼はS-Fマガジンを離れ、独立した活動に邁進、そしてご伴侶である栗本薫/中島梓さんを亡くされます。おそらく彼が言った「何かやりましょう……」の中には、作家・栗本薫/中島梓さんの作品のどこかが引っかかっていたのかもしれません。けれど時は無情に流れていきました。私たちの間には何も起こらなかったのです。
よしんばその時、デジタル出版がなされたとして、いったい何ができたでしょうか? 今となっては誰も読めなくなってしまったボイジャーの「栄光」のCD−ROMを思い出します。きっとそれに近い残骸を晒したまでのことだったでしょう。時を待つ必要はやはりあったのです。
24年が経過して、私たちは再びその昔に立ち戻ってお互いを見つめ合いました。今岡 清さんは言いました。「やりましょう」。今度は「何か」はありません。スネ言葉も消えていました。
◎VOYAGER報道資料
http://www.voyager.co.jp/hodo/160715_press_release.html
紙ではできなかった――ならばデジタルで。作家・栗本薫 未刊行作品 電子本シリーズが7月15日よりスタートします。今岡 清さんと私たちボイジャーは24年の時を経て尚、自分たちの約束を忘れずに、デジタル出版実現に漕ぎつけることができました。「漕ぎつける」と言わずして何と言えるでしょうか! 涙がこぼれます。
何かを実現させるには、それなりの時間と、お金と、思慮と、情熱が必要です。パパッとやってササッと消えることはよくあることです。しかし、消えてはならないのです。私たちは残す記録をつくっているのです。今岡 清さんの粘り強さに力を貰いました!