メディアには優劣があります。これはどうしようもない現実です。コンテンツはおおよそ大きいメディアから小さいメディアへ流れていき、その売り上げは見事な相似形に下へ下へと小さくなります。逆三角形――底辺が極貧なわけです。デジタル出版はそのどん底に長い間位置し、貧乏の限りをつくしました。むかしばなしついでに、デジタル出版の前に、やはり底辺メディアであったレーザーディスクのお話をさせてください。
レーザーディスクとはどんなものであったか?
レーザーディスクは画質・音質など当時として誇るべきところは多々ありましたが、いかんせん時代の波に乗り切れず約20年でその生涯を閉じました。デジタルの夜明け前、真っ暗闇の中をインタラクティブだの、ランダムアクセスだのという新しい表現の概念を追求したといっていいでしょう。メディアの持つ潜在性に目を注ごうとしたパイオニアという会社の企業精神があったればのことです。彼らは新しい時代の映像文化の探求を実行させたのです。自信があったわけじゃないです、微かに、および腰に、本当に小さな部隊ではありました。斥候隊のようなものでしかなかったと思います。でも、パイオニアはこれをやったのです。種明かしをすると、その部隊が後になってボイジャーというデジタル出版の会社となりました。1981年から1992年まで11年間、ボイジャーの前身はこのメディアで「斬り込み隊」として多くの肉弾戦を経験したのです。
レーザーディスクはビデオに喰われ、CDに追いやられ、DVDに息の根を止められた、そう言っていいでしょう。しかし、いくつかの小競り合いで勝利した戦いがありました。コンテンツの面から分かりやすくお話しすると、あの劣勢の中にあってレーザーディスクが断然優勢のビデオに売上で打ち負かした三つのコンテンツがありました。
一つは『コヤニスカッティ』ゴッドフリー・レシオ監督の文明批判のドキュメンタリー映画です。砂漠と高層ビルの対比にフィリップ・グラスの音楽が流れます。ジャケットデザインは、今は亡き石岡瑛子さん。このデザインは映画用ポスターで、配給した日本ヘラルドの神立勝一さんが目をつぶって融通してくれたのです……多分……もう忘れました。
http://www2d.biglobe.ne.jp/ks_wca/text/text46.htm
二つめは『ナイヤガラ・ソングブック』大瀧詠一のメロディーにのって、昼下がりのプールサイドの水面に花びらが延々とたゆたう気だるいBGV。杉山恒太郎が演出だったと思います。
三つめは『Sports Illustrated 今年の水着』。今年がいつだったのか確とは思い出せないけれど、もって嚆矢となすヒット・シリーズの第一弾。美人モデルの水着づくし……お部屋でこっそり穴のあくほど見つめていたい。
いずれもメジャーな作品とは言えないものです。でも、共通する何かが含まれていました。見たこともない映像です。フィリップ・グラスとか大瀧詠一とか気になる音楽も付いてます。美人モデルとか水着とか、劣情湧きたつ素直な分かりやすさがあります。
三作品にはこれら何かが備わっていたのです。売上枚数も7,000枚~10,000枚ほどのものだったはずですから、大部を売り切るベストセラーなどとはわけが違います。倹しいものです。けれどそうであったからこそ、メジャーを突き進んでいたビデオとの勝負に勝つことができたのです。目立たなかろうと、日陰だろうと、画質・音質にこだわり、未知のトライへ相和すレーザーディスクの愛好者にその心は届いたわけです。
やるなら自分の思うことをやれ。映画でヒットの作品をメディアの弱者として相似形に小さいままに受け入れて、果たしてそれで浮かばれる何があると言えるでしょうか。どこかに待つ人、信じる人、投げよう、届けよう。無から立ち上がろうとするならば、どうあろうとも厳しい負の重みにぶつかります。覚悟しなきゃならんでしょう……わかってますよネ、みなさん。