作品の存在を示すささやかな灯(ともしび)

「夜に口笛を吹くと蛇が来る」
そう教えてくれた祖父の葬式の夜、口笛を吹いた「彼」の元に宅急便で届けられたのは一匹の「蛇」だった。
奇妙な環境に置かれた「彼」は妻の喪失を、そして「息子」の存在を受容できるのだろうか――

 

Romancerで「口笛の届く距離」という作品が公開中です。今回、この「口笛の届く距離」の著者である横田 青(しょう)さんにインタビューをさせていただきました。Romancerでどんな人が、どんなキッカケで電子出版を初めたのか色々とお話を伺わせていただきました。

 

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著書「口笛の届く距離」と横田 青さん

◎執筆のキッカケは病室のいびき

――簡単に横田さんのプロフィールを教えてください

 40代のIT系サラリーマンです。若いころはアパレルで働いていたんですが、思うところあってIT業界に身を移し、その後、いろんな会社を転々としたり、自分の会社を作ってみたり、まあ適当な感じで暮らしています(笑)。

――今回、執筆を始めたキッカケはなんですか?

 何年か前にスノーボードで大クラッシュしまして、半月板を痛めたまま暮らしていたんですが、正座もできなくなるくらい膝が悪化してしまって、一昨年の11月に手術のために入院したんです。最初は小説を書こうなんて思っていなかったんですが、病院で相部屋になったオッサンのいびきがうるさくてなかなか眠れず(笑)……仕事用にPCは持ってきたんですが、夜まで仕事も味気ないなと。ちょっと書きたいこともあったし、「それじゃちょっと久しぶりにやりますか」と病室で思い立ったのがキッカケです。

 

◎妻が一番の読者

――執筆中は誰にアドバイスをもらっていましたか?

 実は10年前に集英社さんのすばる文学賞に作品を応募していて、二次選考(1176作品中ベスト33作品)まで残ったことがあります。その時は独り身で周りに本好きな人もいなかったので、自分で何度も繰り返し読んでは推敲していました。それから10年経って既婚者になり、本好きの妻という心強い味方ができたので、今回は応募前に他人に読んでもらうということを初めてやりました。

 正直なところ最初はちょっと恥ずかしかったんですが(笑)、「まあちょっと読んでよ」という軽い感じで見てもらいました。作中に3歳ぐらいの子どもが出てくるのですが、うちには同じ年頃になる息子がいるので、妻の感想を聞くだけでなく、自分が執筆中に考えていたことなどを妻と話し合ったりもしました。自分の書いた小説が夫婦間のコミュニケーションツールになるというのは、ちょっと新鮮な体験でした。

 

◎1カ月半で1,000ダウンロード 読まれているという事実が嬉しい

――「口笛の届く距離」はRomancerの他にどこで読むことができますか?

 Kindleストア、楽天ブックスで無料公開しています。RomancerでWordからEPUBに変換して、そのまま各ストアへ登録しました。Kindleストアでは、公開から1ヶ月半で1,000ダウンロードくらいになりました。当然土日のダウンロードが多いんですが、なぜか朝4時頃にダウンロードがあったりして、これはどういう人がどうやって作品を見つけたのかなと気になったりもします。

 

 また、無料の楽しいところといいますか、Amazonランキングの中で夏目漱石さんだとか夢野久作さんと肩を並べることがあって、恐れ多いことですけれど、ちょっと誇りに思ったりもします(笑)。

 

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Amazonランキング 文学・評論(2015年1月10日時点)

 

◎世に問う手段としてのセルフパブリッシング

――作品を書いて、売ってみたいという気持ちはありますか?

 今の段階では無料でもいいから、なるべくたくさんの人に読んで欲しいなと考えています。今回の作品もすばる文学賞に応募して一次選考を通過した作品です。残念ながらそこ止まりで商業ベースの選考には漏れてしまったんですが、やっぱりたくさんの人に読んでもらって「こんなの書いたんだけど、どう思う?」 と問いかけたいという気持ちがあったから、文学賞にも応募したんだと思います。

 今までは出版社さんの選考を通らなければ、少なくとも作品を広く世に問うということはできませんでした。けれど、セルフパブリッシングによって、取るに足らないかもしれませんが自分の書いた作品を世間に投げかけることができました。これは大きな変化だと思います。「自分の作品はここに存在しているんだよ」という、ささやかな灯(ともしび)というか、信号というか、そういったものを自分の意志でともせるようになったというのは素晴らしいことなんじゃないでしょうか。

 

 また、レスポンスもダイレクトで面白いです。今のところひどいことは言われてないですが――そして言われたらへこむと思いますが(笑)――それでも良いこと悪いこと含めてフィードバックが直接的にもらえるというのが、Webで作品を公開することの面白みかなと思っています。

 

◎子どもを持っているお父さんお母さんに響くと嬉しい

――どんな方に作品を読んで欲しいですか?

 僕が子どもを持って分かった色々な感情とか、子どもの命の重さであるとか、子どもに対する祈りみたいな想いが込められている小説なので、ぜひお子さんのいらっしゃる方に読んで欲しいですね。ご自分のお子さんが小さかった頃を思い出して読んでもらえると嬉しいです。

 

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本をクリックすると作品が読めます

 

横田さんありがとうございました!

突然のインタビュー依頼にも関わらず快く引き受けていただき、また、終始和やかで楽しい雰囲気でお話を伺わせていただきました。Romancerチームでは作家に焦点をあてた記事を今後公開していきますので、お声がけの際はぜひご協力をお願いいたします!