『にっぽん虫の眼紀行』刊行にあたって

にっぽん虫の眼紀行(立ち読み版)

 

このメッセージはボイジャー作品をご支援くださるみなさまへ、心をこめてお送りするものです。

 

毛丹青 著『にっぽん虫の眼紀行–––––中国人青年の見た日本』が12月26日から電子本として発売されます。著者の毛丹青は、1987年留学生として来日以来、日中相互に繰り返された愛と憎しみを受けて両国の架け橋となる活動の数々を行ってきました。北京で発行された雑誌『知日』は、2010年9月尖閣諸島中国漁船衝突事件後の反日運動の嵐の中であえて企画され成功を導きだしました。日本版『知日』が発行されることになった今、本書を新しい電子出版物として復活させ、もう一度手元にひらく機会がやってきたと思います。

*日本版『知日』は潮出版社より2015/1/5発売予定です。

 

『反日』下での『知日』の成功(毛 丹青)
『反日』下での『知日』の成功(毛 丹青)

 

今回の電子本をご購入いただくと、上製本をあわせてお届けする計画です。すでに販売機会を失い断裁される運命にあった書籍を著者のご協力で入手することができました。紙の本は1998年(法蔵館)、2001年に文庫として(文藝春秋)から刊行されていますが、お届けするものは法蔵館より刊行された上製本です。

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《内容紹介》
日本と中国は隣国です。人種的にも、地理的にも、交流の歴史のどれをとっても日本人と中国人は非常に近しい間柄です。しかし両者は時には非常に遠くもあります。1962年生まれの著者は文化大革命の後半期を『毛沢東語録』を暗誦して過ごしてきました。後に留学生として来日し、肉眼を通し、また肌で感じる日本の現実を「虫の眼」として体験することになります。小さな視点からとらえるものは一つの民族の喜怒哀楽を映し出し、二つの国を結びつける文章を導きだしました。好奇心溢れる中国青年が、繊細な視線と豊かな感性で、忘れられた日本の自然と文化の奥深さを再発見したユニークな日本体験記です。

 

《著者の略歴》

毛 丹青 マオ タン チン:
作家。神戸国際大学教授。1962年、中国・北京生まれ。中国社会科学院哲学研究所助手を経て、三重大学に留学。商社勤務などを経て執筆活動に。2011年日本文化を紹介する雑誌『知日』を中国で創刊し、主筆を務める。日本に批判的 な空気が強い今の中国で若者文化をおしゃれに紹介するスタイルが受け、大ヒットとなっている。2014年文藝春秋より発行された『恵恵 日中の海を越えた愛』の出版コーディネートを行い、村上春樹『女のいない男たち』の中国語翻訳も行っている。著書『にっぽん虫の眼紀行』は、法蔵館/1998年、文春文庫/2001年に刊行されている。

 

なお、著者は現在ボイジャーが進めていますマンガ海外展開事業の中国語翻訳のリーダーとして活躍しております。

 

《担当者からのひと言: 萩野正昭 》
電子本『にっぽん虫の眼紀行』出版に関わった者として、みなさまへ私の気持ちをお伝えさせてください。
個人的なことになりますが、私の兄は中国現代文学の研究者でした。文化大革命の真っ最中に北京へ留学し現地で教鞭もとりました。その関係で私たち家族は、一貫して中国へのまなざしを温和に同胞としての気持ちを保ってきました。ある意味で珍しい、特殊な日本人であったかもしれません。
けれど、どうして日本と中国は仲良くなれないのでしょうか。中国だけではなく韓国、北朝鮮もそうでしょう。もし、これらの国々と日本が協力できたなら、どれだけ世界につよい発信力をもてるか………。おそらく、どこかで阻止したい力があるのだろうと想像します。
日本が連帯の先頭に立てないのは、かつての侵略戦争の歴史があるからでしょう。日本が指導することを快く思わない気持ちが深く残っているのです。このことは認識した上で、私たちは相互に理解を深めていく必要があります。長い時間を経てきたのです。今はその絶好のチャンスではないでしょうか。指導者とか、国家とかのレベルではなく、交流する人々との関係からお互いを見つめ合う必要があります。その根源は「理解」です。
電子出版は微力なれど、その志をもつことに胸を張りたいと思いました。どうぞみなさん「虫の眼」からはじめましょう。

 

なお、30年以上前の1987年、冒頭に書きました私の兄と毛丹青との出会いが今回の出版とのつながりをつくりました。北京大学を卒業して日本へ留学した毛丹青は三重大学で私の兄と出会います。人と人との関係が家族へと広がり、より大きな関係へと広がっていく小さな歴史が『にっぽん虫の眼紀行』の心情には流れていると思います。

 

《ご参考》

李 城外 著『追憶の文化大革命』上・下 (訳) 萩野脩二,山田多佳子

 

 

これらの本は全てRomancerで作成されました。