ボイジャーは、実戦での原爆投下50年の1995年、ジョン・エルス監督のドキュメンタリー映画『The Day After Trinity』を軸にしたデジタル出版(CD-ROM)の製作をした。日本語版は翌年『ヒロシマ・ナガサキのまえに』として出版された。その後、諸般の事情によりドキュメンタリー映画部分が削除されてしまったが、関連する写真、インタビュー、資料はそのまま出版・公開が継続されている。この機会に、原爆投下の前に何があったのかを見届けていただきたい。
アシュトンさんは1997年45歳のとき、離婚を切り出した女性たちに関する著作『Cutting Loose: Why Women Who End Their Marriages Do So Well』(「解放、結婚を解消した女性がうまくいく理由」の意)を執筆します。
アシュトンさん自身が結婚生活を終わらせようと決心したとき、米国では離婚は三組に二組が女性からの申し出だということに驚きました。そこでアシュトンさんは離婚後の実態を調べ始めたのです。「従来のシナリオでは、女性は孤独で悲惨な結末を迎えることになっていますが、でもそうではありません」
「『Cutting Loose』は私の最初の本格的な本です。19社に出版企画を持ち込みましたが、48時間ですべて断られました。ハーパーコリンズ社だけが前払い印税を大金で提示してくれたのです。2017年にはペーパーバックになりました。『This Chair Rocks: A Manifesto Against Ageism』を出版した後です」
ハーパーコリンズで4万部売れているそうです。
アシュトン・アップルホワイト著 「Cutting Loose」
姑の一言でブログを開設
アシュトンさんの新たな伴侶のご両親は、ルース・スタインさん、ビル・スタインさんという80代後半のベテラン書店員でした。あるときルースさんからアシュトンさんは「それでいつ引退するの?ってよく聞かれる。この問題について書くべきだ、あなたは」と言われました。そこで、2007年に「So when are you going to retire?(いつ引退するの?)」というブログをsowhenareyougoingtoretire.comで立ち上げ、80歳以上であること、そして何らかの形で雇用されている人にインタビューを開始しました。
「みんな誰かしらそういう人を知っていました。下の階に住んでいるピアノの先生、公園でアイスクリームを売っている人、彼らの会計士、会計士のお母さん。米国中を旅して回りました」
アシュトンさんは友人や家族の家に泊まりながら、調査を続けました。博物館の給与や、ブルックリンの持ち家の家賃収入があったので、「出費は少なかったです。この取材をやり終えるには4から5.6年はかかると思っていました」
調査を進めるうちに、働いている人に焦点を絞るのは狭すぎると気づきました。「それで、名前をStaying Vertical(垂直な姿勢を保つという意味)に変えました。惰性に対抗して活動的でいるという意味です。でも、それもダメだと気づきました。その名前だと、体が動かない人たち、おそらく立ち上がることすらできない人たちが興味深い価値のある人生を送っているとしても、はじき出してしまいます」
「エイジズムを終わらせる運動は、すべての人間を表さねばなりません。私たちは年齢とともに失うものがあることを認めるべきです。米国文化は、仕事を続けている人や若い頃と同じような見た目を保っている人を賞賛します。いわゆるアクティブエイジャー、サクセスフルエイジャーですが、こういった人たちは少なくて、全人口にすれば特別な割合です」
アシュトンさんはブログと本のタイトルを「This Chair Rocks(「この椅子は揺れる」の意)」と呼ぶようになります。「小柄な老婦人がロッキングチェアに座って編み物をしている典型的な老人像への挑戦です。ロックには米国のスラングでエネルギッシュで刺激的という意味もありますから」
ご自分の健康法を聞いてみると、アシュトンさんは運動が苦手。ただ、健康的な食事と体に良い習慣を心がけていて「例えば、両手を使わないで椅子から立ち上がるとか」と答えてくれました。
最新作はブログから
アシュトンさんはとてもゆっくりと手間をかけながら書きます。自分のアイデアを書き留めていくためにブログを始めました。
「本にしようとは考えていませんでした」と言います。
「自分に向かって、アシュトン、このブログの存在は誰も知らない。あなたが書いているものは誰も読んでいない、と言い聞かせていました」
アシュトンさんはこう考えました。「私は現代の作家になれる。ツイートして、ブログを書いて、講演をする。別の本を書く必要はない! でも、本は重要だ。文化を変えることができる」
その考えどおり、年齢差別についての講演を始め、だんだんと支持と評判を得るようになりました。
本を書いてほしいという人たちがそれなりの人数となり、アシュトンさんは書籍作りに取り組みました。『This Chair Rocks: A Manifesto Against Ageism』の原稿の執筆と編集に1年半を費やしました。契約で次作の優先権を持っていたハーパーコリンズ社に送ったところ、この種のテーマの本はまだ1冊も出版されていないという理由で断られたそうです。「実際、こう言ったのです。この内容を他の誰も書いていないことを懸念していると。出版社というものは新しい思想を世の中に送り出すビジネスをしているにもかかわらず!」
アシュトンさんは、出版社は安全で、確立された商品カテゴリーに適合するものを好むと言います。
他の出版社からも納得できる条件を得られませんでした。そこで、2016年に伴侶であるボブ・スタインさん(米国ボイジャー創業者)の協力のもと、『This Chair Rocks: A Manifesto Against Ageism』を自費出版しました。2万2000部売りました。「私は多くの講演を行うようになってきていました。話をするときには本を箱に詰めて持っていきました」
その2年後、セラドン・ブックスと出版契約をしました。セラドン・ブックスはマクミラン社が新たに立ち上げたインプリントです。その創業初期の1冊として本になりました。
インプリントとは米国の出版業界用語で、出版社の内部にある独立採算制の出版事業部のことです。サイモン&シュースターが加わったペンギンランダムハウス、そしてアシェット、マクミラン、ハーパーコリンズは米国出版社のビッグ4と呼ばれています。
2017年4月TEDでの講演も行い、今までに約200万ビューを記録しています。
1952年米国生まれ。作家、アクティビスト。エイジズムの専門家としてニューヨーク・タイムズをはじめ多くのメディアに記事やコメントを寄せている。2019年に本書(原題:This Chair Rocks: A Manifesto Against Ageism)をセラドン・ブックスから刊行。2022年に国連が提唱する「健康な高齢化の10年」において「世界をより良い高齢化社会へと導くリーダー(Healthy Ageing 50)」に選出。(ころから社ホームページより)