アップデートされていくマイ・ラスト・ソング

当サイトに『阿久悠と歌謡曲の時代』を連載中の佐藤剛が構成・演出し、小泉今日子が朗読で、浜田真理子が歌とピアノで出演する公演『マイ・ラスト・ソング ~久世さんが残してくれた歌~』が、3月と4月に東京(Billboard Live TOKYO)と大阪(同 OSAKA)で開かれた。ここでは、東京での公演の模様をお届けする。

2018年3月20、21日/4月15、16日 東京・Billboard Live TOKYO
マイ・ラスト・ソング ~久世さんが残してくれた歌~

「末期の刻に、いったい私はどんな歌を選ぶだろう」

『マイ・ラスト・ソング』は、TBSテレビの『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』など数々の人気番組を手がけた演出家・作家の久世光彦氏が「末期の刻に、誰かがCDプレーヤーを私の枕元に持ってきて、最後に何か一曲、何でもリクエストすれば聴かせてやると言ったら、いったい私はどんな歌を選ぶだろう」というテーマで月刊誌に連載されたエッセイ。歌が大好きだった久世氏は無理からぬこととして“ラスト・ソング”を決めかね、連載は14年に及び、取り上げられた歌は120曲にも上った。

久世光彦

久世氏によって女優としての道を開かれた小泉今日子、久世氏の演出によるドラマを観て育ったと話す浜田真理子、久世氏を敬愛する音楽プロデューサーであった佐藤剛の3人は、共に書籍化された『マイ・ラスト・ソング』シリーズの愛読者であり、佐藤がプロデュースしたアルバムの制作を通じて顔を合わせたことから、そのエッセイに書かれた曲を、朗読と歌を通して紹介するという公演を企画、2008年に東京で初演を行った。

これが好評を得て、全国各地で内容を替えながら回を重ね、ことしで10年を迎えた。今回は、久世氏の朋友であり、昨年に没後10年を迎えて以降再評価の機運が高まっている阿久悠の作品が主軸となっている。

まるで料理ショーのような公演

東京ミッドタウンにあるおしゃれなクラブ&レストランの300席は、3月20、21日、好評につき追加された4月14、15日、いずれも1日2回公演が行われ、8回すべてがほぼ満席の盛況となった。60代を中心に幅広い年齢層の男女が会場の雰囲気に合わせて飲食を楽しむ中で場内が暗転、舞台のスクリーンに久世氏の紹介映像が流れてステージが始まった。

小泉・浜田の二人が子供だった1970年代の作品を主に選曲したと言う今回は、『時間ですよ』の劇中歌だった「赤い風船」、『ムー一族』の挿入歌「林檎殺人事件」、唱歌「月の砂漠」、黛ジュンの「雲にのりたい」といった歌が、エッセイの朗読や二人のトークを挟みながら披露され、アンコールの2曲を含めて全13曲、時間にして80分ほどという比較的コンパクトな印象の公演だった。しかしながら、それぞれの歌がそれぞれに過去の記憶や風景を運んでくるため、胸の中には時間以上に豊かな感覚が拡がって、満腹ならぬ満心といったところ。それはその場にいた全ての人々に共通のものと思え、終演後には心からの満足を示す笑顔の花があちらにもこちらにも咲いていた。

ところで“満腹ならぬ満心”と書いたが、筆者は歌を聴きステージを観ながら「これはまるで料理ショーのようだ」と思っていた。

天性の歌手、浜田真理子

浜田真理子は、小泉今日子も佐藤剛も惚れ込む天性の歌手。心地よい歌声を自在に操って、微妙な風景の色合いや繊細な感情の変化までを見事に描き出す。彼女がカバーすると、この歌は本来こう表現されるべきだったに違いないと感じることも少なくない。今回の公演で最も意外なアレンジで披露されたのは「UFO」で、オリジナルでは大人気アイドルのSFチックなポップ・ソングという印象だったが、アダルトな品格とセクシーさを感じさせる一曲に変貌していたのには驚いた。

浜田真理子

彼女の才能は歌声を操ることだけでなく、楽曲の魅力を高い純度で伝えることにも発揮されて、その他の曲についても、いくら聴いても聴き疲れることのない心地よさで耳に届き、改めてその作品のよさに触れた思いだった。

それは素材の持ち味を生かし切り、調味や盛り付けにおいて味覚や視覚にも最高に訴える天才料理人の業にも似ている。アンコール2曲目の「街の灯り」では、途中にステージ背景のカーテンが開き、ミッドタウン4階からの景色を眺めながら歌を聴くという趣向が用意され、さらにボビー・ヴィントンの「ミスター・ロンリー」を挿入するという、この人ならではのアレンジも楽しませてもらったが、その中で「このピアノを弾く指は、例えば魚のわたなんかも鮮やかに抜いてしまうのだろうな」などと想ってしまった。

久世光彦という“歌の食通”が選り抜いた品書きの中から取り上げられたメニューを、彼女ならではのセンスと技術で再現、あるいは書き記されたレシピ以上のものとして提供する様子は実に見事で、痛快の一言だった。

また、佐藤の存在も忘れてはならない。小泉・浜田が作る料理に最適な食材を選ぶかのように、企画に応じて構成しているわけだが、それは5冊の単行本となった『マイ・ラスト・ソング』を精読し、登場する歌の魅力や、一曲一曲への久世氏の思いを的確に読み解いているからこそできること。誰もが簡単に真似られるものではない。

二人の個性が織りなすハーモニー

そして、小泉今日子の存在。美しく年齢を重ねて落ち着きを感じさせながら、“みんなのキョンキョン”としてステージに立ち、客席を見下ろしているような感覚を抱かせることなく朗読し、語りかけ、笑う。「街の灯り」~「ミスター・ロンリー」では、彼女も客席に背を向けて風景を見やっていたが、その後ろ姿のきれいだったこと。永遠のアイドルなれば正面が美しいのは言うまでもないが、椅子に掛けたその背中が漂わせる美には、女優として磨き上げてきた成果が表れていた。

小泉今日子

3月の公演では最後に追加公演の告知をして「……そんなところでしょうか(笑)」とあっさり小泉が締め括ったが、終演後、『マイ・ラスト・ソング』を初期からずっと観てきたという男性にその魅力を聞いてみた。いわく、二人の個性が織りなすハーモニーは他では味わえないもので、年数を重ねるほどに、それが芸として磨かれているのが感じられる。朗読やトークから歌に移り、また戻る時の絶妙な間はその一つの象徴で、それが絶妙でありながら、同じ公演を観ても回によって微妙に異なるところには、芸が生きていることを実感でき、次回も足を運びたくなるとのこと。

4月の追加公演も筆者は観たが、確かに小泉の朗読からはより深い思いが感じられて、二人の芸がさらに熟成していくのを見ていきたいという気持ちが強まった。

“最期の歌”として選ばれた『マイ・ラスト・ソング』だが、「last」には「最後」と同時に「最新」の意もある。久世氏が愛した数々の歌は、小泉今日子・浜田真理子・佐藤剛の3人によって、これからも“生きている歌”=マイ・ラスト・ソングとしてアップデートされていくのだろう。

(文・寧樂小夜)

曲目リスト

  1. 赤い風船
  2. 林檎殺人事件
  3. 月の砂漠/世迷い言(追加公演)
  4. 雲にのりたい
  5. 一本の鉛筆
  6. ひとりじゃないの
  7. アズ・タイム・ゴーズ・バイ
  8. あの鐘を鳴らすのはあなた
  9. 時の過ぎゆくままに
  10. 君をのせて
  11. 〈アンコール〉
  12. UFO
  13. 街の灯り~ミスター・ロンリー
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