“時代を抱いた作詞家”の功績に触れて

当サイトでもお知らせしてきたように、今年は阿久悠さんの没後10年、作詞家50年の節目に当たる。テレビ、他の各種マスコミでは様々な特集が組まれており、「勝手にしやがれ」「渚のシンドバッド」「津軽海峡・冬景色」などの阿久悠作品を耳にすることも多い。つい先日も歌番組で阿久悠メドレーを観て、11月に開かれた『阿久悠リスペクトコンサート』で感じたのと同じことを思ったので、ここでコンサートの内容に触れつつ記しておこうと思う。

2017年11月17、18日 東京国際フォーラム・ホールA
阿久悠リスペクトコンサート ~君の唇に色あせぬ言葉を~

歌い手を選ぶ歌

名曲として末永く愛される条件の一つとして、時が流れても作品の魅力が色あせないことが挙げられるが、阿久悠作品は間違いなくこれを満たしている。が、例えば当サイトで連載中の『阿久悠と歌謡曲の時代』で、阿久さんが強く意識した存在とされているザ・フォーク・クルセダーズの北山修が書いた作品とは大きく異なる。

「あの素晴しい愛をもう一度」や「戦争を知らない子供たち」が、多くの歌い手に歌われ“みんなの歌”として愛唱されてきたのに対して、阿久作品は歌い手を選ぶため“みんなの歌”ではなく“オリジナル歌手の歌”としての印象が強い。

このあたりについては、阿久さんや歌謡曲の熱心な研究者としても知られる、いきものがかりの水野良樹さんが次のようなコラムを公開している。

阿久悠の作品群はなぜ「エバーグリーン」と呼ばれないのか。
あれだけ多くの人々に愛され、なおかつ時間の経過にも耐え、今も歌い継がれていることに疑いはないのに、同時代、あるいは彼以後に現れた作詞家、シンガーソングライターの作品たちに比べると、阿久悠の作品群はこの「エバーグリーン」という単語と結びつけられる機会が圧倒的に少ないように思います。

MIZUNO YOSHIKI OFFICIAL SITE――Column「阿久悠をめぐる対話を終えて」

そして、11月17、18日に東京国際フォーラムで行われた『阿久悠リスペクトコンサート ~君の唇に色あせぬ言葉を~』は、その考察を明確に裏付けるものとなった。

歌い手の核を成す歌の力

コンサートは阿久作品のオリジナル歌手、その作品に縁のある歌手が両日合わせて20組出演した(石川さゆり、石野真子、五木ひろし、岩崎宏美、大橋純子、北原ミレイ、木の実ナナ、ゴスペラーズ、ささきいさお、Char、新妻聖子、林部智史、BOYS AND MEN、増田恵子(ピンク・レディー)、MAX、松下優也(X4)、森進一、八代亜紀、山本リンダ、和田アキ子 ~五十音順)。

オープニングは両日とも、阿久さんの未発表詞に天才ジャズ・ピアニストと称される奥田玄が曲を添えた「いずこ~ふたたび歌を空に翔ばそう」の、リリー・フランキーによる朗読。歌で始まらないことで、単なる歌謡ショーではなく、作詞家の功績をたどるという趣旨が示される。

ステージの背景にはスクリーンが設けられて、阿久さんの写真などと共に、独特の書体で綴られた自筆の歌詞を投影。歌と共に歌詞を読む機会と言えば、思い浮かぶのはカラオケで歌う際。そういうときには詞を味わう余裕など持てないが、このコンサートは詞がメイン。歌を聴きながら、じっくりと詞を読むことで、改めてその歌の深い味わいに気付けることもあって、シンプルではあるが的を射た演出だった。

司会者はなく、例えば17日は八代亜紀から五木ひろしまで、各出演者が1、2曲ずつ歌ってバトンをつないでいくスタイル(途中に休憩あり)。両日ともに25曲ずつが歌われ、2日間で50曲が披露された。

作詞家としての阿久さんの全盛期は1970~80年。公演で歌われた作品中、最初期のヒット曲である「笑って許して」「ざんげの値打ちもない」は発売からすでに47年を経ている。当然、歌い手もそれだけの年齢を重ねているわけだが、和田アキ子も北原ミレイも、また大橋純子も、石野真子も、こんな言い方をしては失礼だが、出演した全てのオリジナル歌手が、衰えを感じさせない、予想以上に見事な歌を聴かせて、阿久悠作品の魅力を堪能させてくれた。それは名曲を歌い続けるプロ歌手の矜持か、あるいは責任感のためだったろうか。いずれにせよ、各歌手の代表作として輝きを放つ阿久作品が、今も個々の歌い手の核を成していることが察せられて、歌の力の大きさを実感させた。

歌と歌手の唯一無二の相性

また、ステージでは各出演者が、歌の前後に阿久さんや楽曲についてのエピソードを語ったが、それらをまとめただけで本が出来るくらい興味深い内容が多かった。ヒット曲を作るということは、単に詞を書くという領域をはるかに超えて、歌い手やそれに関わったスタッフ、さらにはその歌を愛した人々の人生に深く関わるということ。没後10年を過ぎてなお、その作品を歌うために多くの歌手が集い、それを聴くために2日間で1万人が集まったことで、阿久悠その人の偉大さが改めて実証されたわけだが、そこでは思った以上に阿久悠という作詞家の特質を窺うことができた。

例えばそれは服飾の分野で言えば、オートクチュールの職人技。阿久さんは、実際に歌い手が特定された上で詞の発注を受けることがほとんどだったわけだが、いつ、誰が、どんな目的のために着るものなのかを考えて服を作るのと同じように、詞を書いた。

そのため、ある人物のために生地を選び、採寸して作られた服を他人が着たら、似たような体型ではあっても本人ほどフィットすることはないのと同じで、阿久作品は歌い手を選ぶ。ジュリーが「勝手にしやがれ」や「時の過ぎゆくままに」を歌うのを観たり聴いたりした者にとって、その歌はジュリーのものであって、決してそれ以外のものではない。

だからこそ、その感性が対象である歌手や時流を的確にとらえた時の爆発力には凄まじいものがあった。尾崎紀世彦の「また逢う日まで」、ペドロ&カプリシャス(高橋真梨子)の「ジョニィへの伝言」、沢田研二の「勝手にしやがれ」などのヒットをリアル・タイムで知る世代なら共感していただけると思うが、そこには唯一無二とも言える相性があって、それぞれの歌は歌手の魅力を最大限に引き出し、また歌手も作品をこれ以上はないという完成度で表現していた。

今回のコンサートでも全く同じことが言え、オリジナル歌手の歌は総じてよかったが、カバーについては物足りなさが残ったというのが正直な感想。歌い手の実力に問題はないのだが、「ざんげの値打ちもない」を発売当時より素晴らしいのではないかと思える歌声で届けた北原ミレイが歌ってさえ、「北の宿から」は「やっぱり都はるみだな」と思ってしまったのだから、オリジナル歌手と歌の相性は、歌唱力や表現力を超えていた。

何十年が経っても色あせない歌

そして、時流、時代の空気をとらえて作られた歌は、その作品が流行った当時の空気を連れてきた。それは、思い出の歌を聴くと、当時の記憶が蘇るのとは違う。特に思い出せるエピソードもないのに、大橋純子の「たそがれマイ・ラブ」や新妻聖子がカバーした「ジョニィへの伝言」、増田惠子とMAXの共演による「UFO」で涙が出そうになって驚いたのだが、それは過ぎた時の懐かしさが思いがけず胸に溢れたためだろう。

ところで、八代亜紀の「雨の慕情」を聴きながら、こういう詞を書く人は今はいないだろうと思った。「私のいい人」という言い回しを耳にすることがないし、またそれが似合う大人も今ではめったにいない。しかし、その言葉は過ぎ去りし日々の空気をまとって、阿久さんが確かに時代をとらえていたことを感じさせた。自ら考え出した15条の作詞家憲法に「歌は時代とのキャッチボール」と盛り込んだ人であれば当たり前のことだったかもしれないが、そうした歌を次々に作り、阿久さんほどヒットさせた人は他にいない。

かつて一世を風靡した女性アイドルが“時代と寝た女”と評されたが、これに倣えば阿久悠という人は“時代を抱いた作詞家”と言えるのではないだろうか。

ただ、それはいつも気まぐれで、壁ぎわに寝がえりをうっている間に出て行ってしまうこともある。実際に阿久さんのヒット作は1970年代後半から減少していくのだが、自身が「ざんげの値打ちもない」の成功により作詞家として本格的に歩み始めたとする1970年以降の時代を、その歌で彩ったことは間違いない。そして、それらは何十年が経っても色あせることなく、この秋の東京国際フォーラムでも人々の胸を打ち、心を慰めた。

両日ともステージの最後は出演者全員の合唱で、17日に歌われたのは「青春時代」、そして18日は「また逢う日まで」。それは、阿久さんの作品を愛する人々にとって、その歌と共にあった日々は青春であり、また次に逢う時にも変わることはないというメッセージにも思えた。

(文・寧樂小夜)

曲目(*は未発表詞による新曲

  1. 1日目(11月17日)
  2. オープニング いずこ~ふたたび歌を空に翔ばそう(朗読 リリー・フランキー)*
  3. 舟唄(八代亜紀)
  4. 雨の慕情(同上)
  5. たそがれマイ・ラブ(大橋純子)
  6. 時の過ぎゆくままに(林部智史)
  7. この街(同上)*
  8. ピンク・レディー メドレー ~ S・O・S、渚のシンドバッド、サウスポー、UFO(MAX)
  9. ざんげの値打ちもない(北原ミレイ)
  10. 恋は砂時計(同上)*
  11. 狼なんか怖くない(石野真子)
  12. 日曜日はストレンジャー(同上)
  13. 宇宙戦艦ヤマト(ささきいさお)
  14. 時代おくれ(同上)
  15. 闘牛士(Char)
  16. 気絶するほど悩ましい(同上)
  17. 五番街のマリーへ(新妻聖子)
  18. ジョニィへの伝言(同上)
  19. どうにもとまらない(山本リンダ)
  20. 狙いうち(同上)
  21. さらば涙と言おう(ゴスペラーズ)
  22. 熱き心に(同上)
  23. 笑って許して(和田アキ子)
  24. あの鐘を鳴らすのはあなた(同上)
  25. 居酒屋(五木ひろし&木の実ナナ)
  26. 契り(五木ひろし)
  27. 青春時代(出演者全員)
  28. 2日目(11月18日)
  29. オープニング いずこ~ふたたび歌を空に翔ばそう(朗読 リリー・フランキー)*
  30. ロマンス(岩崎宏美)
  31. 思秋期(同上)
  32. 勝手にしやがれ(松下優也)
  33. もしもピアノが弾けたなら(同上)
  34. 最後の恋(増田惠子)*
  35. ざんげの値打ちもない(北原ミレイ)
  36. 北の宿から(同上)
  37. 失恋記念日(石野真子)
  38. わたしの首領(ドン)(同上)
  39. 逆光線(Char)
  40. 気絶するほど悩ましい(同上)
  41. どうにもとまらない(山本リンダ)
  42. 狙いうち(同上)
  43. フィンガー5 メドレー ~ 恋のダイヤル6700、個人授業、学園天国(BOYS AND MEN)
  44. 友ありて‥(同上)*
  45. たそがれマイ・ラブ(大橋純子)
  46. 五番街のマリーへ(新妻聖子)
  47. ジョニィへの伝言(同上)
  48. ピンク・レディー メドレー ~ カルメン’77、ウォンテッド(指名手配)、ペッパー警部(MAX)
  49. UFO(増田惠子&MAX)
  50. 能登半島(石川さゆり)
  51. 津軽海峡・冬景色(同上)
  52. さらば友よ(森進一)
  53. 北の螢(同上)
  54. また逢う日まで(出演者全員)
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