今後への期待をさらに高めた充実のステージ

「Romancer Cafe」では、さらに内容を充実させるため、「歌謡曲」をテーマに、より広範な情報発信を行って参ります。ここでは、その第1回として2016年に『紅白歌合戦』初出場を果たし、ますますの活躍が期待されている市川由紀乃さんのコンサート・レポートをお届けします。

2017年9月11日 東京・浅草公会堂
市川由紀乃コンサート2017~(うたい)(びと)

なめらかな敬語が耳に心地よいMC

昨年、デビュー23年目にして初のNHK『紅白歌合戦』出場を果たし、一気に注目度と人気を上昇させている市川由紀乃。現在の歌謡界にあって、演歌の伝統を守りつつ、さらに多彩な展開への期待を集める、高い実力の持ち主だ。3月には『紅白』連続出場への勝負曲「はぐれ花」を発売、オリコン演歌・歌謡ランキングに当然のごとく1位で初登場。総合ランキングでは自身最高の11位を記録して、着実な人気の広がりを印象付けた。

その市川が、昨年の9月以来2度目となる東京・浅草公会堂でのコンサートを開催した。前回も発売からさほどの時を経ずしてチケットが完売したが、今回も同様。3階席の最後列までがファンで埋まり、誰もが開幕を待ちかねている。

客席の照明が落ちていよいよ開演が近付くと、場内の空気は俄然熱を帯び、幕が上がった舞台中央に市川が姿を現すと、男女の声で盛んな声援が飛ぶ。同性からも多くの支持を集めているのは彼女の大きな強みだ。

『紅白』の舞台で歌われた新たな代表曲「心かさねて」で始まったステージは、本人の挨拶を挟んでオリジナル・メドレーへ。その歌には、音色のよさや繊細な表現力によって高い評価が集まっているが、所作や言葉遣いがきれいなことでも人気の人、MCでもなめらかな敬語が耳に心地よい。ここで歌われた「海峡出船」、他の7曲は、「一度でいいから」が1998年、「絆坂」が2001年の作品とあって歌い慣れていることもあるのか、見事な聴き応え。2002年から約4年半に及ぶ休業を経ながら、衰えることのなかった豊かな歌唱力を見せつけた。

続いては、本格的なブレイクの足掛かりとなった2015年発表の「命咲かせて」。「心かさねて」「はぐれ花」とこの歌の時は、本人と一緒に歌うファンの声が聞こえて、カラオケでも盛んに歌われている人気の高さを実感させた。この辺りは、演歌市場の主なユーザーである、カラオケ愛好家にとって、より親しみやすい曲にシフトしたスタッフの戦略が奏功した結果だろうが、一般が歌いやすい曲では、プロの実力が存分に発揮されない例が多い。そろそろ素人が歌いやすいことより、彼女の歌の聴き応えを優先させた作品を望みたい気もする。

紛れもないアイドルのステージ

その後、小中学生の頃に出場したテレビののど自慢番組のビデオを流す間に着物を替えて、島倉千代子の「愛のさざなみ」、美空ひばりの「残侠子守唄」、五木ひろしの「待っている女」と続くカバー曲コーナーへ。ビデオを観ながら、子供の頃からずば抜けた歌唱力を備えていたことに改めて驚かされたが、タイプの異なる3曲のカバーでは、その才能がさらに磨かれた見事な表現で披露され、レパートリーの広さや、表現者としての可能性の豊かさを示してみせた。

と、ここまでは言うことなしの内容。相変わらず、ここぞというところで盛んに「由紀乃ちゃん!」「由紀乃!」といった声援が飛び、客席では終始たくさんのケミカルライトが揺れている。AKBグループなどに比べれば年齢は高いが、その構図は紛れもなくアイドルのもの。17歳でデビューして、今なおアイドルとして活躍する姿は、俗に言われる演歌歌手の息の長さを見事に実証している。

そしてステージは、次の「船頭小唄」から、少し趣を変えていく。大正時代に流行した演歌の原点とも言える曲を切々と歌って下がると、白のドレスに着替えて登場し、小坂明子の「あなた」やかぐや姫の「赤ちょうちん」を歌う。着替えの間を、女性二人組のダンスでつないだが、この時のディスコ・サウンドがどうも市川由紀乃コンサートのイメージに合っていないように思えて、やや醒めた。

吉幾三の「情炎」に続いてはアイリーン・キャラの「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」を先の女性たちとのダンスと共に歌うという意外な見せ場が用意され、さらにその後は、2011年発売のアルバム『決定版 戦国女絵巻』収録の「お市の方」を本人によるナレーションや台詞を交えて一人芝居風に聴かせた。

そして「はぐれ花」、この日が初披露というオリジナルのエンディング曲「あなたがそばに」を歌ってコンサートは終了。会場を後にするファンはみな笑顔で、ステージの満足度が高いものだったことを示していた。この調子なら、来年も同じ会場で公演できるだろうし、もっと大きな会場に移っても座席を埋められるだろう。

ただ、うるさいことを言えば、「船頭小唄」以降がバリエーションに富んでいた分、まとまりに欠けるきらいがあり、「なぜ、この曲?」という疑問が浮かんだものもあった。個人の感覚的な問題なので、全て素晴らしかったという感想を持ち帰ったファンも多いことと思うし、様々な作品をカバーして、自身の表現力を高め、レパートリーを広げていくのは、今後のますますの充実のために必要なこと。彼女にはさらに精進を重ね、歌に磨きをかけて、こちらにつべこべ抜かす余地を与えないようなステージを期待したい。市川由紀乃の持てる力が、この程度のものでないことは、彼女を支え励ました市川昭介、木下龍太郎をはじめとする作家はもちろん、ファンも業界関係者もきっと知っている。

(文・寧樂小夜)

当日の曲目

  1. 心かさねて
  2. オリジナル・メドレー ~ 海峡出船 ~ 一度でいいから ~ 絆坂 ~ 女の潮路 ~ 花の咲く日まで ~ 流氷波止場 ~ 海峡岬
  3. 命咲かせて
  4. 愛のさざなみ
  5. 残侠子守唄
  6. 待っている女
  7. 船頭小唄
  8. あなた
  9. ある女の詩
  10. 赤ちょうちん
  11. 情炎
  12. フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング
  13. お市の方
  14. はぐれ花
  15. あなたがそばに
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