「阿久悠と歌謡曲の時代」第三部は、6月29日に掲載した第46回をもって終了となりました。
 ここに至るまでに綴られた文字量は約50万字という膨大なものになりました。佐藤剛さんの「阿久悠を通して、歌謡曲の正体に迫りたい」という気持ちをそのままに、みなさまへお届けしました。
 
 今後の連載ですが、しばらく執筆期間をいただき、11月頃に第4部の開始を予定しています。これまで掲載したバックナンバーについても、再び皆様にお読みいただけるよう準備しています。どうぞご期待ください。
 また、対談記事をはじめ、インタビューやイベントレポートも随時掲載していきます。
 
 今後もRomancer Cafeをよろしくお願いいたします。

 沢田研二「時の過ぎゆくままに」、石川さゆり「津軽海峡・冬景色」、ピンクレディー「UFO」ほか、数々のヒット曲を世に送り出した天才作詞家・阿久悠。彼が、日本の歌謡曲における黄金期を支えたことは間違いありません。しかし、それにとどまらず彼こそが、ビートの時代が到来した1960年代後半から、井上陽水、忌野清志郎、松任谷由実、桑田佳祐らへと受け継がれた、“新しい歌づくり”を実現させる魂の原点であったことを見過ごしてはならないのです。
 そう語る気鋭の歌謡曲研究家・作家、佐藤剛が、高い評価を得た著書『上を向いて歩こう』や『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』などに続いて取り上げるテーマは『阿久悠と歌謡曲の時代』。それは「ない」からはじまった――。

音楽プロデューサーとして甲斐バンド、THE BOOMなどを手がけ、作家として『上を向いて歩こう』(岩波書店)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)などを上梓している。
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特別対談 2018年7月11日掲載

佐藤剛×ギャランティーク和恵「生々しさこそが歌謡曲の魅力」前編

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6月某日、『阿久悠と歌謡曲の時代』連載中の佐藤剛さんと、ソロ・シンガーとして、また、ミッツ・マングローブさん、メイリー・ムーさんとのユニット「星屑スキャット」で活動中のギャランティーク和恵さんが対談を行いました。
『上を向いて歩こう』『「黄昏のビギン」の物語』『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」』などの著作、そして『阿久悠と歌謡曲の時代』の執筆やWEBサイト「TAP the POP」の連載などを通して、歌謡曲の生命力とその背景にある人間ドラマを広く伝えている佐藤さんと、ライブはもちろんのこと、CDや配信による楽曲のリリース、コラムなどの執筆(GetNavi webで「レコードショップ ギャラン堂」を連載中)と、歌謡曲を中心に多岐にわたる活動を展開中の和恵さんに語り合ってもらったのは、「いったい歌謡曲の何が面白いのか?」という実に本質的なテーマ。さて、二人の話から見えてくるもの聴こえてくるもの、そしてわかってくることは何でしょう?

やりたいことを一つずつ、時間はかかっても大事にやっていく

佐藤アルバム『化粧室』を聴かせていただきましたが、かなり高度なことをしていますね。

和恵私たちも素直じゃないもので(笑)、歌謡曲的なんだけど現在のJ-POPでありたいみたいな、いろいろなこだわりやアイディアを詰め込んであるんです。

佐藤デビューから10年以上経って初めて出したアルバムですから、いわゆる集大成ということになるんでしょうけれど、時間をかけてじっくり活動してきた結果がいい形で表れてますね。

和恵結果はなかなか出ないものですから、時間かかってますよね。少しずつ理解、共感してくださる方が増えてはいるんですけど。

佐藤「新宿シャンソン」をプロデュースしたリリー・フランキーさんなんかも、とてもいい仕事をなさってますよね。

■星屑スキャット「新宿シャンソン」

和恵あの曲は、楽曲からPVまでリリーさんが進めてくださって、私たちはただそこに乗っけさせてもらっただけなんですけど、お蔭さまでとても高く評価してくださる方が多くて、本当にありがたいことだと思ってます。

佐藤表層だけの判断で物事が押し流されていきがちな時代にあって、きちんと活動の中身と本質を評価する人が、各分野にいるというのは素敵なことですね。

和恵そうですね、本当に。だからこそ焦らずに、自分たちのやりたいことを一つずつ、時間はかかっても大事にやっていこうと思ってます。元々、女装していて、ゲイであって、特にミッツさんはテレビなんかの活動でおねえタレントみたいに見られていることも多いから、先入観があるんですよね。星屑スキャットに対してもそれを取っ払うのにけっこう時間がかかりましたね。仕方のないことだと割り切っては来たんですけど。それでも最近は、ありがたいことにようやく、アーティストとして評価してくださる方が増えてきました。

懐メロというフィルターをかけずに、その本質を歌い継いでいきたい

佐藤グループとして注目される機会が増えてきたわけですが、ソロでも活発に活動を続けていらっしゃいますよね。

和恵そうですね、以前から年に3回くらいソロでコンサートを開いてたんですけど、星屑が忙しくなってきたので、今はその合間を縫ってなんとかって感じで、次は7月14日に六本木のSUPER DELUXEで「電撃的歌謡環嚠嬲ワールド」というワンマン・ライブを開きます。私個人のオリジナルもやりますけど、歌謡曲のカバーを思いっ切り歌う内容です。

佐藤歌謡曲のカバーということで言えば、この10年くらいを振り返ってみると、ちあきなおみさんが「星影の小径」や「黄昏のビギン」を歌ったような、その楽曲の評価を大きく変える決定的なカバーというのは、しばらく生まれていないと思うんです。

和恵私個人の勝手な推測なんですけど、「星影の小径」や「黄昏のビギン」って、発売当時はそこまでヒットした曲ではなくて、流しの方たちが歌い継いだりしてきたものが、ちあきさんに取り上げられることで、初めて脚光を浴びたんですよね。でも、近頃のカバーってオリジナルが売れたものを取り上げてることが多いから、カバーで知っていいと思った人も、結局その歌の評価はオリジナルのほうへ流れていってるんじゃないかと思うんです。どうしてもオリジナルを超えられない。ちあきさんの場合はオリジナルの存在があまり知られていなかったし、聴いてみようと思っても何十年も前の曲だったから、そこへの評価には至らず自然と彼女のオリジナルとして成立したんだと思います。

佐藤それに、アレンジが原曲とはかなり違っていたことも大きいと思うんです。もともとビギンというダンスのリズムで出来た楽曲だったのに、ちあきさんの「黄昏のビギン」は全然ビギンのリズムじゃありませんね。でも、中村八大さんが作ったメロディーや、描かれている情景の素晴らしさを浮かび上がらせることに、ヴォーカルもアレンジも成功している。神業とでも言いたいような、服部隆之さんによる編曲がされているんです。和恵さんは以前に話を伺った時に、歌謡史上の名曲を、懐メロというフィルターをかけずに、その本質を歌い継いでいきたいとおっしゃってましたが、そういう考え方で歌っていけば、また新たなカバーの成功例が生まれると思うんです。

カバー曲で大事なのは編曲です

和恵地道な作業ではありますけど、私たち歌謡曲ファンというのは売れなかった歌や、アルバムに入っていたものの中から名曲を見つけ出すのが好きなので、その種はいっぱい持っているんです。それを少しでも紹介できたらと思って、こんな風に『ANTHOLOGY』というミニアルバムのシリーズをリリースしてるんです。

佐藤(『ANTHOLOGY』シリーズを手に取り)3曲に1曲ぐらいしか知らないなぁ。

和恵私の好きな歌ばかりで、ライブでは歌っていたんですけど、音源にしないとなかなか届かないかなと思って。ただ、ちあきなおみさんの「黄昏のビギン」みたいにマイナーなものが新たなスタンダードと生まれ変わるためには、どうすればいいかっていうのはわからないんです。

佐藤そのために大事なのは編曲です。原曲にあるリズムとかサウンドを全部外して、詞とメロディーだけにして、そこで何が残せるかということだと思うんです。例えば、ちあきさんの『星影の小径』というアルバムでは、倉田信雄さんと武川雅寛さんが、どの曲も大胆なアレンジをされているでしょう。

和恵あれ、すごいですよね。

佐藤そうでしょう。原曲を一度壊してしまって、その上で独創的なアレンジしていて、最新のサウンドにも挑んでいる。それで楽曲の良さを引き出せたかと言ったら、曲によっては微妙なところもあるんですが、本質的な良さが引き出された「星影の小径」が誕生し、たくさんの人たちに発見されることになった。ちあきさんの声そのものを重ね合わせたところに、圧倒的な魅力が生まれたわけです。

和恵星屑スキャットのファーストシングル「マグネット・ジョーに気をつけろ」(作詞 阿久悠/作曲 川口真)も、GALという70年代のアイドルグループのカバーでした。初めに配信した時は元のサウンドやアレンジをほぼ忠実に再現していたんですけど、CDでリリースする時には中塚武さんにアレンジしていただいたんです。そうしたら、それによってようやく“マグネット・ジョー”を現代に届けられたような気がしたんです。佐藤さんがおっしゃるのは、つまりそういうことなんですね。

■星屑スキャット「マグネット・ジョーに気をつけろ」(シングルVer.)

佐藤そうです。でも、では今の音、今のアレンジっていうのが、実は見極めるのが難しいんですね。今の制作環境では努力しても、みんな同じような音になってしまうジレンマがある。

宇多田ヒカルさんに感じたものは圧倒的でした

和恵歌謡曲の良さって、詞や曲ももちろんですけど、作られた当時の音の感触っていうのもあると思うんです。そういうものが好きだから、歌謡曲をカバーしようと思っても、例えば今流行っているからと言ってEDMにするなんていうのは違う気がして……。原曲が持っていたサウンドやアレンジの良さも、一緒に表現したいって思います。

佐藤歌う人のそういう感覚も、とても大事ですよね。だって、歌の歌詞というものは、曲とアレンジとのセットで、最終的なカタチになるという前提があるから、それだけでは全てを言い切っていないわけです。その足りていない部分を埋めたりふくらませたりして、聴く人たちに原曲以上のものを届けられるかどうか、というところが歌い手にかかってくる。すべては歌手の表現力に託されている、そういうところが歌謡曲の大きな特徴でもあるんですね。

和恵その力がある歌手は当然、作詞家や作曲家の創作力を駆り立てるでしょうし、そういう歌い手はやっぱり、ヒット曲に恵まれやすいということになるんでしょうね。岩崎宏美さんとか山口百恵さんなんて、その代表的な方じゃないかと思うんです。そして、そういう力を持った個性的な歌手がたくさんいて、それぞれに作家の方たちがインスパイアされて歌が作られるから、歌謡曲の世界ってこんなにもバリエーションが豊かなんでしょうね。昔のほうが歌手の個性が活かされていた気はしますね。

佐藤エルヴィス・プレスリーがデビューした時に、アメリカの大人たちは身体をくねらせたり足を震わせたりして歌う姿に、「何だ、この気持ち悪い野郎は!?」と思ったわけです。最初から非難轟々だったのですが、そうした拒否反応が収まるのに数年かかっています。水原弘の「黒い花びら」が発売された時にも、日本では若者たちから大人までみんな、「なんてザラザラした感触の歌なんだ」と強い違和感を覚えたそうです。でも、どちらも若い世代に歓迎されてヒット曲になっていったわけですけど、そこにはそれまでにない強烈な個性があったということなんですよね。

和恵そういう感覚は、私、宇多田ヒカルさんが出てきた時に感じたんです。初めて聴いた時に「なんて変な歌い方をしてるんだろう」って思って、上手いのか下手なのかもよくわからないくらいだったんです。それは初めて出会う個性だったからですよね。でもその後は聴くたびに好きになってファンになってしまったんですから、とにかく衝撃的でした。それ以降にはそういう経験ってないと思いますね。

佐藤僕も宇多田さんに感じたものは圧倒的でしたね。歌い方も作品も、彼女の本質から生まれているものだと思えました。

和恵それこそ個性だと思うし、そうやって身を削るようにして歌を作り、表現するところに人は感動するんですよね。

佐藤その通りですね。声のことだけを考えてみたって、名曲と言われるような作品を歌った人の多くは独特な声を持っています。

歌い手を人として成長させていく、作家との関係

佐藤『阿久悠と歌謡曲の時代』でも書きましたけど、例えば「津軽海峡・冬景色」によって石川さゆりさんという歌手は、大きく成長していくわけです。

和恵確かに、最初のレコードを聴くと、若いというかまだ歌い切れていない感じがありますものね。

佐藤まだ18歳だったんですから、これはいい意味で思いっきり背伸びして、歌詞の世界を可能な限り表現しようと、ひたむきに歌っていたのでしょう。でも、あの歌がヒットしたことで、その後トップスターの座へと導かれていくわけですよね。しかも人間としての生き方においても、阿久悠さんが歌に込めていた思い、新しい時代に生きる強い女性像を体現していくことになりました。つまり阿久さんの歌に大きな影響を受けて、そこから歌手として本格化したと考えられるんですね。そういう人は、さゆりさんだけではありません。こうした作家と歌手の関係が、和恵さんとどなたかの間で生まれる可能性は十分あるはずなので、そのためにも楽曲との出会いが大切ですよね。

和恵もうすでにいい年齢になって、かなり出来上がってしまってる上に、女装して歌うスタイルでかつゲイであるという歌手に、何か面白さを感じてくださるような作家の方がいらっしゃったらいいんですけどね(笑)。

佐藤活躍が多くの人に知られるようになっていけば、和恵さんの存在を知る人も今より増えてくるじゃないですか。まだまだ出会いも展開もあるでしょう。そういえば、出会いとはちょっと違うんだけれど、阿久悠さんが美空ひばりさんに書いた「それでも私は生きている」っていう歌があるんです。この歌はひばりさんが歌い続けていれば、きっと「人生一路」みたいに今に残る歌になったと僕は思うんだけど、そうはならなずに忘れられてしまった歌です。もしかすると和恵さんに、合うんじゃないかという気がしてきました。

和恵聴いてみます!

佐藤美空ひばりという人はいい歌に出会ったら、それをじっくりと時間をかけて歌うことで、ヒット曲に育てていった人です。「人生一路」も「悲しい酒」も、そうやって今に残っているんです。もちろん「柔」や「真赤な太陽」のように、発売していきなり売れる歌もあるんだけど、大概は歌手やスタッフが育てたことで、ヒット曲に育っていったように思います。和恵さんは、カバー曲を積極的に紹介したり、ライブなどを通じてご自分や星屑スキャットの歌を大事に歌ってきているから、「それでも私は生きている」みたいな作品を、後世に残す人になるかもしれません。

和恵そうなれたら嬉しいですね。

(後編につづく)

ギャランティーク和恵|電撃的歌謡環嚠嬲

日時|2018年7月14日(土)
時間|OPEN 18:00_START 19:00_CLOSE 22:00
料金|5,500円(指定席)/4,000円(スタンディング)
※共にドリンク別
会場|SUPER DELUXE(六本木)
〒106-0031東京都港区西麻布3-1-25 B1F(MAP
Tel 03-5412-0515

チケット等の詳細はこちらをご覧ください。

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